「うちの者が調べたところ、あの小さな記者は正規のメディアの記者ではなかった」
木場左近は畑野志雄を一瞥してから続けた。「その記者はちょうど近くで女優のゴシップを追っていたところ、彼の側を通りかかった二人の女性が、豪門の捨てられた妻で殺人容疑者に会ったという話をしていたんです」
「記者はその二人の女性からスーパーの住所を聞き出し、そこで奥田さんを待っていたんです」
畑野志雄の目が冷たく光った。彼は尋ねた。「誰が広めたのか分かりましたか?」
豪門のゴシップはネットユーザーによって何度も拡散されている。最初に投稿した発信源は特定できても、情報提供者までは特定できない。
畑野志雄が最も心配していたのは、この件が森田綺太と関係しているかどうかだった。もし森田綺太と関係していれば、それは森田が梨ちゃんを狙っている証拠になる。
畑野志雄が考えている間、木場左近は黙って邪魔しなかった。
*
正午になると、日差しがかなり強くなっていた。
奥田梨子は高橋探偵と会った後、サングラスとマスクをつけて個室を出た。
彼女は今やネット上の有名人になっていた。批判される種類の有名人で、外出する時はマスクとサングラスが必要だった。
奥田梨子は自分を楽しませるのが上手だった。
賀来蘭子はミニスカートと半袖Tシャツを着て、元気いっぱいに車のドアの前で手を振っていた。
「長く待ってた?」
奥田梨子は午後にまだ時間があったので、賀来蘭子に電話をして誘っていた。
二人は昼食を食べた後、一緒に松ノ館でコンサートを聴きに行く予定だった。
賀来蘭子は手に電池式の小さな扇風機を持って仰いでいた。「ううん、今来たところよ。乗って、暑いから」
奥田梨子は今日ボディガードを連れて出かけていた。彼女が運転する車の後ろには、ボディガードが車で追従していた。
二人が車に乗り込むと、賀来蘭子は振り返って後ろについてくる二台の車を見た。
「梨さん、あなたのボディガード増えたんじゃない?」
「うん、そのほうが安全だから。畑野さんがボディガードを増やしてくれたの」
奥田梨子はネット上の噂話のせいで家に閉じこもるつもりはなかった。
彼女は何も悪いことをしていない。
恐れて外出しないようなことは何もなかった。