午後の日差しが事務所の窓から差し込んでいた。
奥田梨子は書類に没頭していた。寿村秘書から金城夫人が彼女を訪ねてきたと聞いた。
彼女は少し驚いたが、すぐに頷いた。「金城様をお通しください。」
数分後、事務所のドアがそっと開き、金城夫人は保温ボックスを手に持ち、微笑みながら入ってきた。
「どうして直接いらしたんですか?」奥田梨子は手元の書類を置き、立ち上がって迎えた。
金城夫人は笑顔で奥田梨子の前まで歩み寄り、保温ボックスを彼女に渡した。「梨子、シェフにオウギとクコの実、ナツメのスープを作らせたの。忙しく働いている人の気血を補うのにぴったりよ。」
奥田梨子は保温ボックスを受け取り、心の中で少し驚いたが、それでも礼を言った。「わざわざ持ってきていただいて、ありがとうございます。」
彼女の話し方はとても丁寧で、まるで他人に対するようだった。
金城夫人は来る時にすでに心の準備をしていた。彼女は優しく梨子を見つめ、「大したことじゃないわ。温かいうちに飲んでね。お母さんはもう仕事の邪魔をしないから、何かあったらお父さんに電話してね。」
奥田梨子は微笑みながら頷いた。
金城夫人はすぐに事務所を後にした。
奥田梨子は手の中の保温ボックスを見つめ、一瞬複雑な気持ちになったが、今は忙しいので考える余裕もなかった。
おそらく金城夫人は母娘の関係を修復したいのだろう。
彼女は保温ボックスを机の上に置き、再び仕事に戻った。
そのとき、寿村秘書が事務所のドアをノックし、大股で入ってきた。
「社長、数人の株主から電話があり、なぜ今回の船沈没と密輸事件について何の広報対応もしていないのかと問い合わせがありました。また、今日の株式市場の終値で、森田財団の株価が下限まで下落しました。」
予想通りのことだった。
奥田梨子は顔を上げて寿村秘書を見つめ、冷静に言った。「森田おじさんたち数人の株主を調査するよう人を派遣して。できるだけ詳しく。」
寿村秘書は頷いたが、まだ少し心配そうだった。「すぐに調査するよう手配します。しかし、シリコン宅配の沈没と密輸の件を引き続き対応しなければ、今後の状況はコントロールが難しくなるでしょう。」