第269章 恋愛してないのに

病院からホテルに戻る車の中で。

奥田梨子は少し疲れを感じていた。

彼女はアイアコとマックスにメッセージを送り、怪我のため明日遊びに行けない理由を説明した。

岡部俊雄が梨子を部屋まで送り、「社長、何かあったら電話してください」と言った。

梨子はうなずき、「うん、ありがとう」と答えた。

岡部俊雄が部屋を出ようとしたとき、ちょうどドアをノックしようとしていた畑野志雄と鉢合わせた。

畑野志雄は岡部俊雄に軽くうなずき、部屋に入った。

岡部俊雄は畑野志雄が入るのを阻止するためにドアを閉めたい気持ちがあったが、そうできないことを知っていた。

梨子は入ってきた畑野志雄を見て、少し驚いた様子で「マックスから聞いたの?」と尋ねた。

畑野志雄はうなずき、「ああ」と答えた。

彼は近づいてしゃがみ、彼女の膝を見た。男の表情は真剣で、医者がすでに包帯を巻いていたため、傷の状態は見えなかった。

彼は立ち上がり、梨子を一瞥してからパジャマを取りに行き、着替えさせようとした。「今日は一時的にシャワーを浴びることができないよ」

彼は梨子がパジャマに着替えたくなさそうな様子を見て、彼女が何を考えているか分かった。

「今日は体を拭くだけでいい?それとも今すぐ防水カバーを買ってきてもらう?」

梨子はシャワー中に滑って転んだため、体が十分に洗えておらず、本当に不快だった。

「防水カバーを買ってきてもらおう」

畑野志雄は電話をかけ、木場左近に足用の入浴防水カバーを買ってくるよう頼んだ。

電話を切ると、彼は彼女の隣に座り、「梨ちゃん、これからは気をつけてね、そんなに無謀にならないで」と言った。

「うん、今回は教訓にするわ」

彼女の言葉が終わるか終わらないかのうちに、ドアをノックする音が聞こえた。

畑野志雄はドアを開けに行った。

岡部俊雄は手に袋を持ち、畑野志雄に友好的な笑顔を見せながら部屋に入った。「社長、防水カバーを買ってきてもらいました。必要かと思いまして」

梨子は淡い笑みを浮かべ、「ありがとう」と言った。

畑野志雄は手を伸ばして防水カバーを受け取り、岡部俊雄に頷いた。「ありがとう」

岡部俊雄は畑野志雄が正式な夫のような態度を取っているのを見て、歯ぎしりしたくなったが、礼儀正しく退出した。