この冷たい夜の中で、その背中はとても寂しげに見えた。
朦朧とした月明かりが男の上に落ち、彼は海に向かって立ち、孤独で無力な印象を与えていた。
「斎藤央?」
もし朝比奈初がこの見慣れたシルエットを時間内に認識していなければ、彼女は本当に誰かが命を絶とうとしていると思ったかもしれない。
初は先ほどの慎重さを捨て、堂々と彼に近づき、好奇心を持って尋ねた。「ここで何してるの?」
央は声を聞いて振り向き、初を見ると、すぐに顔の憂いを隠した。
彼は笑みを浮かべながら言った。「朝比奈さん」
初は彼が何かを隠そうとしているのを感じたが、直接聞くのも気が引けたので、さりげなく気遣った。「何か悩みでもある?」
初のその言葉を聞いて、央は苦笑いした。「いいえ、何もありません」
彼の心の内は誰に話しても適切ではなく、それに初とはそれほど親しくなく、交流もそれほど多くなかったので、距離を保つ方が良いと思った。
彼のこの返答を聞いて、初は彼が話したくないのだと理解した。
でも構わない、どうせ彼女は詮索好きではなく、ただ央の様子がおかしいと思って、慰めたかっただけだった。
しばらくして、初は促した。「じゃあ、戻りましょう。ここは寒いから」
央はさっきカメラマンが気を取られている隙に、こっそり抜け出してきたのだろう。そうでなければ、彼の立場でカメラマンが付いていないはずがない。
こっそり出てきたのなら、そろそろ戻るべき時間だ。
央は頷いた。「うん」
彼が戻ろうとしたとき、初がその場に立ったままなのに気づき、不思議そうに尋ねた。「戻らないの?」
初は笑いながら言った。「あなた先に行って」
「わかった」彼女のそんな慎重さを見て、央もある程度察することができた。おそらく前回彼女にジャケットを渡そうとした時と同じ状況なのだろう。
ちょうど央も何か問題を起こしたくなかったので、初がこんな細かいところまで考えているのは、むしろ彼に敬意を抱かせた。
初は確かに誤解を避けるために、彼と一緒に歩くことを選ばなかった。
彼女は海辺に立って風に当たり、央が戻ってみんなの中に溶け込んだ後、ゆっくりと戻っていった。
……
翌日、みんな基本的に自然に目覚めるまで寝ていた。