第121章 あなたって本当に偽善者ね

彼の手元には交渉中の二つの作品があったが、これまでの経験から判断すると、長谷川一樹はあまり期待できないと感じていた。

まあ、彼にとっては出演できるかどうかはどうでもよかった。黒い噂があっても一種の話題性であり、多少の仕事は回ってくるものだ。

朝比奈初は彼を見つめ、突然口元を少し歪めて、嘲笑うように笑った。

彼女が自ら尋ねてきたのに、一樹はまだ冷静さを保ち、あの件について何も言わなかった。

一樹は彼女が突然笑い出したのを見て、少し不思議に思い、瞳孔を縮めて好奇心を持って尋ねた。「何を笑ってるんだ?」

彼に出演作がないことを笑っているのか?

それとも彼が怠けていて、何もしていないと思っているのか?

初は笑みを引っ込めると、目を細めて尋ねた。「あなたのマネージャーが時代劇を見つけてきたんじゃなかった?」

「……」彼女は知っていたのか?

彼はその役を諦めようと思っていたのに、どうして朝比奈初の耳に入ったのだろう?

一樹は一瞬固まり、冷たい声で言った。「俺のマネージャーが君に話したのか?」

「そうよ、彼女が私に助けを求めていることは明らかだった」初は少し眉を上げ、無関心そうに言った。「彼女は私に概要を送ってきたわ。あなたのマネージャーはなかなか優秀ね、目も確かだし、こんな良い役を見つけてくるなんて」

初はその日、時間を見つけて概要に目を通した。脚本の中の男性三番手の役は良く描かれていた。最終的には大悪役の手にかかって死んでしまうが、彼の生前のストーリーは非常に魅力的だった。

傲慢な社長役などよりも、この美しく強くて悲劇的な設定の方が視聴者を引きつける。

一樹も最初はこの役に心惹かれていたが、監督の最終的な要求を聞いたとき、彼の心からすべての興味が消えてしまった。

しばらくして、一樹はようやく冷たく言った。「演じたくない」

「演じたくない?」初はそれを聞いて、瞳に驚きを浮かべた。「あなた、随分と恩知らずね」

彼女は一樹のマネージャーとのチャットのやり取りから、この役を獲得するために彼女がどれほど努力したかを読み取ることができた。

「助けが必要」という言葉が明示されていなくても、初はマネージャーの懸命な言葉の裏に、一樹の芸能界での将来を思う気持ちを感じ取ることができた。