第129章 家に帰って塩漬け魚の奥さんになる

長谷川彰啓は先ほど窓の外を見た時、少し気を取られてしまい、母親が最後に言った言葉をはっきりと聞き取れなかった。

アシスタントの声が小さすぎて、長谷川の母には聞こえず、彼の「うん」という返事は自分に対するものだと思い込んだ。

長谷川の母:「じゃあ、もう休ませるわね。」

——

番組収録現場

朝比奈初は手持ちの食材を使っていくつかの料理を作った。前回までの二回と同様、全く違う料理だった。

季節の野菜はだいたい同じものばかりで、番組側が提供する肉類も決まっていた。他のグループは変化をつけられずにいたが、初だけは毎食新しいメニューを出していた。

長谷川一樹は相変わらず彼女の手伝いをして、簡単な作業をこなし、初が早く食事を作り終えるのを助けていた。

斎藤彩はキッチンを譲った後、部屋に戻って服を着替えた。体についた生臭い水を洗い流すだけでなく、メイクと髪型も整え直した。

彼女が部屋から出てきた時には、初はすでに料理を全て作り終えていた。

九十九聴が料理を運ぶのを手伝い、一樹は食器棚から茶碗と箸を取り出して、テーブルに整然と並べていた。

彩が彼らの方へ歩いてくると、無意識にテーブルを一瞥した。テーブルには料理が所狭しと並び、料理の香りが空気に混ざり、彼女の鋭敏な嗅覚を刺激した。

最後の青菜炒めが鍋から出され、初は皿に盛り付け、コンロの火を消すと、その皿と長い間脇に置かれていた酢豚を持って出てきた。

ちょうど彩が軒下に立っているのが見え、彼女との距離はほんの数歩だった。初はさりげなく言った。「食事の用意ができたわ。」

彩は初が自分の前を通り過ぎるのを見て、先ほどまで彼女が自分をまともに見ていなかったことに気づいた。

彼女の視線は初の動きを追い、初が自分を食事に誘っているのかどうか疑問に思っていたところ、初が手に持っていた二皿の料理をテーブルに置くのを見た。

次の瞬間、彩は一樹が箸を取り、彼女の酢豚に手をつけるのを目にした。

この光景を見て、彩はいささか動揺した。

他の料理は各グループにあったが、あの魚は彼女が勝ち取ってきたものだった。

彩は無意識にこちらへ歩み寄り、口を開こうとした時には、一樹はすでに魚の身を一切れつまみ、美味しそうに食べ始めていた。