「長…長谷川社長!」さっきの自分の振る舞いは大丈夫だったかな?上司の前で恥ずかしいところを見せてないよね?
さっきは見入りすぎて、自分の大ボスが後ろにいるなんて全然気づかなかったんだから!
初めて上司とこんなに近くに立って、女性社員は舌がもつれてしまった。「社長…よろしければ…私の前に並んでください?」
そう言いながら、彼女は実に堂々と長谷川彰啓に場所を譲った。
彰啓は静かに断った。「大丈夫です、ありがとう」
彼は他の人と何も変わらないので、特別扱いされる必要はなかった。
彰啓が前に出ないのを見て、その女性社員はおとなしく元の位置に戻るしかなかったが、臆病な視線は依然として彼に向けられていた。
彰啓の視線がある方向に固定されていることに気づき、女性社員の目には好奇心が浮かんだ。彼女はしばらく躊躇した後、突然顔を向け、少しあわてた口調で急いで説明した。「私…私は勤務中にスマホをいじったりしません!」
彰啓が目を落とし、視線がちょうど彼女のスマホに落ちていることに気づき、彼女は慌てて別の手で画面を隠した。
若い女性が慌てふためいているのを見て、江川航はすぐに説明した。「大丈夫ですよ、見ていいんです。今はお昼休みですから、何をしてもいいんですよ」
「は…はい」確かにお昼休みは何をしてもいいのだが、突然上司にこの場面を見られて、彼女はとても気まずく感じ、背を向けるとすぐにスマホの音量を下げ、行動を少し控えめにして、あまり目立たないようにした。
彰啓:「……」
二人は食事を取り終え、近くの空いたテーブルに座った。
「正直言って、私はまだ会社の食堂で食事したことがなかったんだ」航は座るとすぐに箸を取り、トレイから回鍋肉を一切れつまんだ。「うん…味は悪くないね。急に学生時代に戻ったような気分だ」
彰啓は返事をせず、ただ黙々と食事に集中していた。
「来週の水曜日に会社の年次パーティーがあるけど、奥さんのあの番組もそろそろ収録が終わるだろうから、一緒に来ない?ついでに私も美羽を連れてきて、奥さんと会わせたいんだけど?」
航が言う美羽とは、彼の彼女である深田美羽のことだった。
彰啓は承諾も拒否もしなかった。「その時になってから考えよう」
このことは事前に朝比奈初と相談する必要があった。彼女が問題なければ、彰啓は当然彼女を連れて行くつもりだった。