第169章 彼女を私の義姉だと認めない

藤田宗也は実験室に一日中座っていたが、何もできなかった。

彼はベランダに出てタバコを吸い、頭の中には佐藤妙の姿が浮かび続けていた。彼女は今何をしているのだろうか?

陽太は彼女が心理カウンセラーの指導に協力的でないと言っていた。彼らはもう彼女に心理カウンセラーとの面談を強制することをやめ、現状を維持することを検討しているという。

現状とは、彼女が今後ずっと彼のことを忘れ、まるで一度も会ったことがないかのようになるということだ。

いや、彼女は彼のことを覚えていないだけでなく、彼を恐れてもいる。

彼は深くタバコを一服吸い込んだ。まあいい、このままでも悪くはない。

渡辺千景は社長室に座り、箱から手作りのお菓子を取り出し、さらに給湯室に行ってコーヒーを2杯淹れた。

山崎お兄さんが戻ってきたら食べられる。きっと気に入ってくれるはず。彼女は期待に胸を膨らませて待っていた。

山崎翔が会議室から出てくると、秘書が近づいてきて言った。「社長、渡辺家のお嬢様がまた来られています。オフィスでお待ちです」

翔はイライラして書類で自分の頭を叩いた。彼は尋ねた。「次のスケジュールは?」

秘書はスケジュール表を確認して言った。「本来なら渡辺氏と南アフリカのプロジェクトについて話し合う予定でしたが、渡辺社長が会社にいらっしゃらないので...」

「待って」翔は田中純希がまだ病院にいることを思い出した。それなら渡辺健太もきっと病院にいるはずだ。彼は言った。「健太を探しに行く」

秘書は彼を呼び止めた。「では渡辺さんは...」

「待たせておけ!」

翔は運転手に車の準備をさせた。彼がエレベーターに足を踏み入れたとき、千景がオフィスのドアを開けて出てきた。「山崎お兄さん、どこに行くの?」

彼女は小走りでエレベーターのドアを開け直し、振り返って秘書を責めた。「山崎お兄さんが会議を終えたら呼んでって言ったのに、どうしていつも忘れるの!」

秘書は苦笑いするしかなかった。この渡辺嬢様は空気が読めないのか?いつも自分に責任を押し付けて!

翔は自分の額を叩いた。何の因果か、こんな精神年齢の低い妹のような子に付きまとわれなければならないのか?