木村拓也は言った。「松本家は国内最大の電気製品輸出商社として、近年の評判はますます悪くなっています。松本家と森業が親戚関係にあるということでなければ、とっくに取引先を変えていたでしょう。社長、どうお考えですか……」
渡辺健太は言った。「変えるべきなら変えればいい。渡辺氏は慈善団体ではない」
拓也は頷いた。「今回の件が解決したら、取引終了を申し出ます」
上田玲奈は5階の万凌エンタメに降りた。彼女は入るなり受付に声をかけた。「コーヒーを入れて。最新入荷のブルーマウンテンコーヒー豆で、角砂糖は4分の1個。多く入れないでよ」
二人の受付は彼女が腰をくねらせながら総経理のオフィスへ向かうのを見て、思わず小声で愚痴をこぼした。「4分の1の角砂糖だって?そんなに気取るなら自分でアシスタント連れてくればいいのに」
もう一人も言った。「本当よね。あの人、ちょっと目立ちすぎじゃない?自分の家の上田歴エンタメより私たちの万凌に来る時間の方が長いわ。誰もが彼女が社長目当てで来てるって知ってるのに、社長が彼女に興味あるかどうかも分からないのに!」
松本智がちょうど通りかかり、彼女たちの私語を聞いた。「上田さんがまた来たの?」
受付は思わず愚痴をこぼした。「彼女以外に誰がいるっていうの?来るなり私たちにあれこれ命令して、万凌と上田歴は確かに提携してるけど、毎日ここに来て威張り散らす必要はないでしょ!」
智は言った。「彼女はお嬢様気質だから。大変ですね」
彼女はこの上田玲奈のことを知っていた。家柄は渡辺家にはるかに及ばないのに、外出時は千景よりも派手で、気性も荒く、いつも渡辺社長に纏わりついている。メディアの前では渡辺社長と結婚すると豪語し、知らない人は渡辺社長が彼女に何かしたのかと思うほど、渡辺社長に責任を取らせようとしている。
彼女は1年前に芸術表演学校を卒業し、父親は会社を手伝ってほしかったが、彼女はもう良い子でいるのはごめんだと、あえて万凌エンタメと契約して芸能界入りした。
家族はとっくに彼女の小遣いを止めたが、幸い卒業前に業界内で多くの人脈を築いており、普段は誰に対しても穏やかで嫉妬を買わないため、家族の助けなしでもそこそこうまくやっていた。