第280章 病院に行きたくない

加藤さんはほとんど手足を使って這うようにして田中純希を見に行き、震える声で尋ねた。「純希、医者を呼んだわよ。どう感じる？」

純希は頭がくらくらして、嗄れた声で言った。「医者は呼ばないで。」

そんなことができるわけがない。加藤さんは救急箱を取りに行き、純希の出血を止めようとした。彼女の額に触れると、ひどく熱かった。

「熱があるじゃない！いつから熱があったの？どうして私たちに言わなかったの？」彼女たちは愛希のことばかり気にして、純希に注意を払っていなかったことを後悔した。

高熱で頭が重く足元がふらついていたから、階段から転げ落ちたのも無理はない。あんなに高い階段から、もし純希に何か不測の事態が起きていたら、彼女の責任は免れないだろう。

加藤さんは純希がどこか怪我をしているかわからず、むやみに動かすのを恐れた。純希の傷を包帯で止血した後、藤原がまだ病院に電話をかけられていないのを見て焦った。「まだなの？電話一本かけるのにそんなに時間がかかるの！」

藤原はパニックになってプライベート病院の番号を忘れてしまい、携帯を持って来て「加藤さん、電話番号はなんでしたっけ？」と聞いた。

加藤さんは本当に怒り死にしそうだった。純希は手足を少し動かして「大丈夫だから、起こして。」と言った。

加藤さんと藤原は純希をソファまで助け起こした。純希はしばらく横になって、少し意識がはっきりしてきた。「医者は呼ばないで。額をぶつけただけで、他には問題ないから。」

加藤さんは彼女が言葉もろくに出せないのに病院に行きたがらないのを聞いて「純希、無理しないで。絶対に病院で検査を受けるべきよ。後遺症が残ったらどうするの？階段はあんなに高いし、本当に死ぬほど驚いたわ！」

純希はティッシュで鼻をかみながら言った。「一階に着く直前に転んだだけよ。少し打撲しただけで、そんなに深刻じゃないわ。」せいぜい3、4段の階段で、しかも階段にはカーペットが敷いてあった。2階から転げ落ちたわけではない。

加藤さんは彼女の言葉を聞いて少し安心した。「じゃあ、家庭医を呼んで診てもらいましょうか。」

純希は首を振った。「解熱剤を飲んで寝れば良くなるわ。数日後に病院で検査を受ければいいから。」

加藤さんがまだ何か言おうとすると、純希は「健太はロシアで仕事の処理に忙しいから、彼に知られたくないの。」と言った。