第168章 私のことは西園寺夫人と呼んでください!

おそらく昔の痛切な思い出のせいで、須藤夏子は声のトーンだけで誰だか分かってしまった。

石川城太。

彼女と引き換えに相続権を手に入れたくせに、よくもまだそんな口調で彼女を呼べるものだ。

彼は自分の厚顔無恥さを恥じないのか、彼女は聞いているだけで吐き気がする……

夏子は本能的に無視しようとして、西園寺真司の手を引いて立ち去ろうとした。

さっき真司は城太を見かけたのだろう、そうでなければ出口に向かう時に、あんなにも突然かつ絶妙なタイミングで彼女の視界を遮ることはなかっただろう。

実際、彼女はもう城太に対して冷静に対応できるようになっていたが、それでも城太に二度と会いたくないという気持ちは本物だった。

真司は夏子の顔に隠された微かな怒りを横目で察すると、彼女の手をなぜか更にきつく握りしめ、鋭い眼差しに暗い色が混じった。

わざわざ自分から近づいてくる人間がいるなら、評判の良くない御曹司として、相手を踏みつけないのは自分の名声に申し訳ない。それに……さっきの石川の口調は西園寺若様の機嫌を損ねていた。

そこで真司は、夏子の非難するような表情の中で足を止め、挑発的な視線を城太に向けた。

すでに店内に入っていた城太も、開け放たれたガラスのドア越しに外を見ていたが、その視線はずっと夏子に注がれていた。

これが元々不機嫌だった西園寺若様をさらに不機嫌にさせた。

「ベイビー、今あいつは何て呼んだ?」

西園寺若様は強引に夏子の肩を抱き、所有欲に満ちた姿勢で彼女をしっかりと自分の腕の中に閉じ込めた。「ベイビー」という言葉は極めて親密で甘やかすような調子で呼ばれ、もう少しで夏子に「西園寺若様専用」という札をぶら下げるところだった。

夏子は彼がいつも事後にしか使わないニックネームを聞いて、顔を赤らめながらも白目を向け、それから視線を向かい側に移した。

城太は今日大きなサングラスをかけていて、一見しただけでは誰だか分からないほどだった。彼は標準的でシンプルな白い服を着ており、その端正な顔立ちだけを見れば、遠くからはまるで格好いい白馬の王子のように見えた。