須藤夏子は紹介を手伝って以来、この件について全く関心を持っていなかった。彼女はずっと、森本千羽が成功するためには自分の実力に頼るべきだと思っていたし、彼女ができる手助けはそこまでだった。
「田村敏子は条件を出してきたんだ。もし千羽があなたに彼女の曲を歌うよう説得できれば、その曲は映画の挿入歌になれると。千羽は自分に自信があったけど、あなたを強制したくなかったから、貴重なチャンスを逃してしまったんだ」
夏子は目を丸くした。
「どうしてそのことを知っているの?」このことは千羽も彼女に話していなかった。
西園寺真司は重要な点を避けて答えた。「偶然知っただけだよ」
彼はとっくに千羽が夏子のマネージャーになる手配をしていた。これは確かに実際に起きたことだが、単なる口実に過ぎなかった。
夏子はそれ以上追求せず、すぐに千羽に電話をかけ、この件を確認した。
「千羽は人柄がよく、社交的で、しかもあなたと気が合う。彼女があなたのマネージャーになることは、彼女自身にとってもチャンスだ」
「でも彼女はマネージャーの経験がないわ」
「だからこそ彼女を推薦するんだ。経験豊富なマネージャーは考え方が固定されていて、アーティストの精力と若さを無限に搾取し、アーティストを金儲けの道具として扱う。彼らは経験豊富でリソースも持っているが、あなたにはそれが必要かい?」
夏子は考えてみると、確かに必要ないようだった……
自分が「特権階級」になったことを認めたくはなかったが、実際、彼女は今多くの特権を持っていた。櫻井静でさえ常に彼女のことを考えていて、マネージャーが持つリソースは全く必要なかったし、誰かの金儲けの道具になりたくもなかった。
「じゃあ……千羽にやってもらおうかな」夏子は悩んだ後、また千羽に電話をかけ、彼女の意見を聞いてみることにした。
すでに西園寺に「買収」されていた千羽は、一秒も迷わずにすぐに承諾した。
夏子は電話を切った後、手に持った携帯を見つめながら、奇妙な感覚を覚えた。なぜか全てが前もって準備されていたように思え、自分は誰かの罠にはまったのではないかと。
そう思うと、夏子はこっそりと振り返って西園寺を見た。
西園寺は落ち着いていたが、夏子は彼から「老獪狡猾」という四文字を見て取った。