病院のVIPフロアに着くと、西園寺真司が予想通り深井和久がここで対応しているのを見た。他の深井家と石川家の人々はいなかった。
深井和久は須藤夏子を見ると、笑顔で迎えに来て尋ねた。「夏子さんは須藤さんに会いに来たんですね。」
彼は夏子と杏奈の仲が良くないことを知っていたので、気を利かせて杏奈の名前を出さなかった。
夏子の目は少し赤く腫れていて、外出時も化粧をする気分ではなかったので、人目を避けるように少し俯いて言った。「はい、須藤—」
須藤明良という名前を言いかけたところで、言葉が詰まった。結局口に出せなかった。不適切だし、もうその名前を呼びたくなかった。
夏子は言葉にしなかったが、彼女の喉に詰まった「須藤」という言葉を和久は聞き取っていた。彼の表情も一瞬止まった後、笑顔で言った。「あいにく、須藤さんは24時間の経過観察の結果、もう大丈夫になって、1時間前に退院されました。」
真司は眉をひそめた。本当にタイミングが悪い。そこで彼は夏子に尋ねた。「須藤家に行ってみる?」
夏子は前方の病室に目を走らせ、すぐには返事せずに言った。「まず杏奈に会ってみます。」
真司はすぐに言った。「一緒に行くよ。」
しかし夏子は今回断った。しかも態度はとても断固としていた。「ただ他のことを彼女に聞きたいだけで、あのことをすぐに話すつもりはないから、安心して。」
真司がまだ何か言おうとしたとき、和久が彼の肩に手を置いて言った。「姉妹の話だから、邪魔しないほうがいいよ。ちょうど君と話したいこともあるし、どこか別の場所に座りに行こう。」
そして和久は真司を引っ張り始めた。
ちょうどそのとき、真司の携帯が鳴った。父親の西園寺源太からの電話だった。彼は出なければならず、夏子に頷いた後、二人は別々の方向へ歩き始めた。
和久はこちらを見たり、あちらを見たりした後、結局真司の後ろについて行った。
夏子はちょうど一人で杏奈の病室に向かったが、角を曲がったところで、石川城太が暗い表情で前の非常口から上がってきて、直接杏奈の病室に入るのを見た。
彼女は少し躊躇した後、それでも近づいていったが、すぐには病室に入らず、外で待っていた。しばらくすると、中から断続的な会話が聞こえてきた。