第323章 緑の帽子

深井お婆様の言葉が出るや否や、深井泰歩と深井文越の兄弟は即座に視線を交わした。

二人の嫁はあまり口を開かなかったが、表情には明らかな驚きが浮かんでいた。

「そ、それじゃあ彼女は本当に取り替えられた子供なのかもしれないね?お母さん、あなたが疑っているなら、私が人を遣わして調査させましょう。ただ……須藤桜と深井桂馨はもういないから、この子の身元を証明するのは難しいでしょうね」文越が真っ先に反応し、お婆様の思考の流れに沿って多くのことを考え始めた。

田村子晴は心の中で考えを巡らせ、尋ねた。「須藤桜の子供が誰なのか、須藤明良夫妻が一番よく知っているはずでは?なぜ彼らに聞かないのですか?」

お婆様は子晴をちらりと見て、思わずため息をついた。「深井杏奈をどう扱うか決める前に、草むらを叩いて蛇を驚かすようなことはしない方がいい。それに、たとえ須藤明良が須藤夏子は深井家の子だと言ったとしても、それは彼の一方的な言い分に過ぎないわ」

「じゃあ、あなたはどうしたいんですか?」泰歩は焦って尋ねた。

お婆様は泰歩に目を向け、言った。「私の考え?もちろん須藤夏子を深井家の令嬢として認めたいわ。彼女は今や西園寺家の若奥様よ。西園寺家という姻戚関係は石川家よりずっと強力だもの。でも、この件は簡単には片付かないわ」

もし深井家が須藤夏子を取り戻そうとするなら、夏子が深井家の子供であるという確固たる証拠を提示しなければならない。さもなければ西園寺家と陸橋家は疑念を抱くだろう。しかし桂馨と桜は18年前に失踪しており、100%確実な証拠を提示することは不可能だ。DNAを調べるにしても、深井家は何を使って検査するのか?泰歩の名目上の父親では明らかに不適切だ!

「それなら……桂馨のことを話してみては」文越は長考の末、慎重に提案した。

泰歩の顔色が一変し、怒鳴った。「弟よ、お前は皆に私が私生児に緑の帽子をかぶせられたことを知らせたいのか!」

「兄さん、そういう意味じゃないんです」

「ふん!お前の意図なんてどうでもいい。とにかく深井家に桂馨の存在を認めるわけにはいかん!たとえあの落とし種を取り戻さなくても、誰にも過去のことを蒸し返させはしない!」泰歩は激怒し、文越を見る目は険しかった。

文越は賢明にも口を閉ざし、再びお婆様に目を向けた。結局のところ、最終決定を下すのはこの家長だった。