第14章 彼から金を巻き上げる

美智は彼に引っ張られてよろめき、彼の体にぶつかった。彼の胸板は信じられないほど硬く、彼女は痛みで涙が出そうになった。

彼女は急いで説明した。「動画を削除しようとしたわけじゃないの。確認したら、監視カメラの映像がとても不鮮明になっていて、ウイルスに感染したみたいだから、ウイルス除去をしようとしただけよ。離して」

武田直樹は彼女を放し、探るような目で彼女をしばらく見つめてから、淡々と言った。「徹がすでに専門家に見せたが、復元できないそうだ」

美智は断固とした様子で彼を見つめた。「私なら復元できる」

直樹は突然笑った。「冗談を言うな、美智。お前にそんな大それた能力があるとは知らなかったよ。専門家より優れているとでも?もう離婚するんだから、私の前で何でも知っていて何でもできるふりをする必要はないだろう?疲れないのか?」

美智は呆然と彼を見つめた。

彼はめったに笑わなかったが、今笑うと、まるで氷山が溶けるようで、彼女の心臓は再び激しく鼓動した。

彼女は本当に情けなかった。何度彼を見ても、まだ心が動いてしまう。

しかしすぐに離婚協議書のことを思い出し、彼女の心は死んだように冷え込んだ。

さらに彼女の心を死なせたのは、彼が彼女の大学での専攻が情報セキュリティだったことを全く知らなかったということだった。

彼の目には彼女の存在など最初からなかったのだ。

美智は自分がどうやって直樹の別荘を出たのか覚えていなかった。千々に引き裂かれた心を抱えて、家に帰った。

ぼんやりと一晩眠った後、翌朝起きた時、美智は無意識に隣を手で探った。

何も触れなかった時になって、彼女は思い出した。引っ越してきたのだ、離婚するのだ。

彼女は自分に直樹のことを考えないよう強いたが、心の奥底の痛みは少しも和らぐことなく、むしろ増していた。

食欲は全くなかったが、オートミールミルクを一杯無理に飲み、会社へ向かった。

彼女が勤める会社はスターライト技研といい、彼女は情報セキュリティエンジニアだった。直樹に映像のウイルス問題を解決できると言ったのは、でたらめではなかった。

まず彼女は社長のところに報告に行った。「有賀社長、出社しました」

有賀尚明は満面の笑みで迎えた。「美智、おかえり!」

少し言葉を交わした後、美智は有賀に仕事を割り当ててくれるよう頼んだ。