美智はしばらく考えて、やはり武田香織に謝るべきだと思った。
「香織さん、本当にごめんなさい。あなたが私に仕事をくれたのに、私のせいであなたがこんなごたごたに巻き込まれて、オークションの通常業務に影響が出てしまって」
「いえいえ、大丈夫ですよ、お義姉さん。別に影響なんてないですし、私たちこうして無事でしょう?」
香織はそう言いながら、態度を変えた。「大伯母さんもほんとうにもう。うちでオークションに出すものがあるって言ってきたのに、結局何も持ってこなかったじゃないですか。相変わらず見栄っ張りですね」
彼女は子供の頃、大伯父の家に住んでいた時、陰で大伯母にいじめられていて、それがトラウマになっていた。
「お義姉さん、録音はどのパソコンに送ったんですか?コピーを取っておきたいんです。大伯母さん、これをすごく気にしているみたいだから」
美智は苦笑いした。「実はパソコンには送ってないの。彼女が突然来たから、録音機をパソコンに繋ぐ時間がなかったのよ」
香織は口を大きく開けた。「大伯母さん、騙されたんですね!」
「そうするしかなかったの。でないと彼女がずっとここにいて帰らないでしょう。本当に仕事に支障が出るわ」
香織は笑い出した。「お義姉さん、正解です。大伯母さん相手には、魔法で魔法を倒すしかないんですよ」
美智も笑って、彼女としばらく話した後、また仕事に戻った。
夕方になって、オークションハウスに二人の男性が訪れ、美智が応対した。
意外なことに、彼らはオークションのためではなく、名指しで武田香織に会いたいと言った。
美智は思わず尋ねた。「お二人は?」
一人は穏やかな声で、笑顔を浮かべながら言った。「鈴木深志と申します。香織の友人です。私の名前を伝えてもらえれば、彼女は会ってくれるはずです」
もう一人が言った。「私は深志の友人で、鈴木鳶尾と言います。あなたは新しく来た方ですね。以前ここで見かけませんでした」
鳶尾はそう言いながら、美智を上から下まで見つめ、その顔に驚きの色が隠せなかった。
美智は彼の遠慮のない視線が気に入らず、背を向けて内線電話を取り、香織に状況を伝えた。
すると意外なことに、香織がオフィスから小走りで出てきた。
彼女は目を輝かせ、明るい顔に笑みを浮かべていた。「深志さん、本当にあなたなの!」