第136章 時代レストラン

彼の言葉を聞いて、永川安瑠はようやく思い出した。帰国してから今まで、葉山千恵と一緒に過ごした時間は本当に数えるほどしかなかった。

帰国したばかりの頃は野方若秋の脅しのために武内衍に近づき、その後は会社の仕事で忙しく、電話での会話さえもほとんどなかった。

親友のことを思い出すと、安瑠の心には申し訳ない気持ちが湧き上がってきた。彼女が疎かにしていたのだ。前回は千恵とデパートに行く約束をしたのに、いくつかの事情で約束を破ってしまった……

「わかりました、葉山社長。時間と場所はどうしましょうか?」安瑠は少し気まずそうに笑いながら、葉山逸風に尋ねた。

「彼女は君が決めればいいと言っていたよ」

安瑠は唇を噛みながら少し考え、そして千恵が好きなレストランを思いついた。「では時代レストランはどうでしょう?時間は7時でいいですか?」

「いいよ」

……

7時に時代レストランで会う約束をし、安瑠は特に早めに準備をした。

時代レストランは茨城で少し名の知れた店で、料理と雰囲気は一流だった。安瑠のアパートからは車で30分ほどの距離にある。

安瑠が出かける準備を整えたところで、武内衍からの電話がかかってきた。

安瑠の心は「ドキッ」と鳴り、突然あの日林田邸で彼が彼女を守るように言った言葉を思い出し、頬が思わずピンク色に染まった。電話に出て耳に当てながら言った。「もしもし?」

「20分で来い。皇庭の3601号室の個室で待っている」衍の冷たく低い声が向こうから聞こえてきた。その声には心を揺さぶる何かがあり、安瑠の鼓動はさらに速くなった。

普段なら、安瑠はすぐに喜んで承諾していただろう。

しかし今日は、事前に逸風と千恵との約束があり、約束を破るわけにはいかなかった。

「今夜は残業があるので、行けないかもしれません……」安瑠の声は細く、柔らかな口調には慎重さが混じっていた。向こうからの他の音は聞こえなかったが、それでも携帯を自分の耳にぴったりとくっつけていた。

「ああ」衍はさらりと返事をし、その声からは喜怒は読み取れなかった。この時、彼は数枚の薄い紙を手に持ち、深い眼差しをその紙に落としていた。何を考えているのかは分からなかった。