第24章 暴走する妄想

それは永川安瑠がデザイン界で最も好きで尊敬しているデザイナーで、「SY」という名前の非常に神秘的なデザイナーだった。

彼（彼女）の名前以外に、性別やその他のことは一切わからなかった。

安瑠がこのデザイナーを好きな理由は、このデザイナーのデザイン理念とスタイルが彼女と似ていて、同じようにシンプルでありながら意味深く、宝石デザインの中で目くらましを使って人々を翻弄する技術を持っていたからだ。

彼女と同じような悪趣味を持つ人に、安瑠は特別な親近感を覚えていた。

しかし、ここ数年SYの作品は続々と発表されているのに、彼女自身は徐々に表舞台から姿を消していった。

安瑠は頭を下げ、暗い目で自分の手のひらを見つめた。アメリカで起きたことは、閉所恐怖症を患わせただけでなく、ペンを持つことへの恐怖も与えた。ペンを手に取るたびに、彼女に休みなくデザインを強要した人々の顔が思い浮かぶのだった。

一場面一場面が映画のリプレイのように、彼女を苦しめていた。

かつては設計を心から愛していたのに、今では最も単純なペンを持つことさえできなくなっていた。

安瑠が再びそれらのジュエリーを見たとき、彼女の目は明らかに暗くなり、最初のような熱意もなくなり、少し重々しくなっていた。

しかし今はそんなことを考えている場合ではない。武内衍としっかり話し合って、彼に星辰を買収しないよう説得することが重要なのだ！

安瑠はようやく我に返り、振り向いて衍がどこにいるか探した。すると彼はショーケースの前に立ち、頭を下げて何かを考え込んでいるのが見えた。

まだいてくれてよかった。彼女はもう少しで大声で叫びそうになるほど驚いていた。

安瑠はぴょんぴょん跳ねながら走り寄り、衍の横に立って彼の前のショーケースをちらりと見て、にこにこしながら尋ねた。「あなたもSYの作品が好きなの？すごい偶然、私も大好きなんだ！」

衍はもともと考え事をしていただけだったが、突然安瑠の声を聞いて、表情を変えずに振り向いて彼女を見たが、何も答えなかった。

「ここに一番多く展示されているのはSYの作品でしょ？他のデザイナーの作品はたった一つだけなのに、彼のだけがこんなに多いの。なぜだと思う？」衍が話さないからといって諦めることなく、安瑠は神秘的な表情で尋ねた。