第45章 厚かましい

永川安瑠が思考を巡らせている時、武内衍は彼女をじっと数秒見つめてから、彼女の腰に回していた大きな手を離し、両手をポケットに入れて、淡々とした目で彼女を見た。

安瑠は数歩下がって立ち止まり、少し顔を上げると、衍の腕の下に挟まれた書類が目に入った。心の中の疑問がすぐに解けた。なるほど、会社に書類を取りに来たのだ。

彼女はほっとため息をついた。てっきり橋本南が彼に自分が会社に来たことを告げたのかと思っていた。もし彼に何か誤解されたら、それは良くないことだった。

衍の細長い黒い瞳が少し細められ、彼女がほっとした小さな仕草を見逃さなかった。彼女は何にほっとしているのだろう？自分の会社に来たことを知らないと思っているのか？

「ありがとう」安瑠は柔らかい声で言い、素早く彼の表情を確認した。不機嫌な様子はなく、心がぐっと楽になった。

「ああ」衍は淡々と返事をし、眉をひそめて彼女に尋ねた。「なぜここにいるんだ？」

「人を探しに来たのよ。ここは人を探しに来ちゃいけないなんて言ってないでしょ？だから私のせいじゃないわ！」安瑠は急いで答え、少し図々しく言った。世紀は確かに部外者が勝手に入ることを禁じていたが、人を探しに来てはいけないとは言っていなかった。だから安瑠はその隙間を突いたのだ。

口がうまいな。

衍の唇の端が上がり、深い瞳の底には砕けた光が散りばめられたように輝いていた。「そう言うなら、私が悪いということか？」

「え？もしあなたがそう思うなら、私も……」後の三文字は衍の危険な視線の下で安瑠の喉に押し戻された。「もちろんあなたのせいじゃないわ。どうしてあなたのせいになるの？これは全部月のせいよ！」

衍が怒って星辰を使って彼女を脅さなければ、自分が悪いと恥知らずに認めてもいいくらいだった。

衍は彼女の突拍子もない冗談めいた口調に思わず笑みを浮かべ、冷たかった眉目も柔らかくなり、あれほど冷淡ではなくなった。

「あの…今帰るの？」安瑠は彼が不機嫌ではないようだと見て、可愛らしい顔に笑みを浮かべて尋ねた。

衍は少しうなずき、彼女を見つめた。彼女は何をしようとしているのだろう？

「ちょうどいいから一緒に行きましょう。あなたには車があるし、私が場所を取れば、車がそんなに空っぽに見えないでしょう？そうでしょ？」