永川安瑠は自分のオフィスに戻り、先週から今週に持ち越した設計図を取り出した。
発売まで一ヶ月を切り、会社全体が忙しくなっていた。これらの設計図は三日以内に確認し、修正に回さなければならない。そうしてようやく製品化され、翡翠傘下の各宝飾店で販売されることになる。
忙しさのあまり、時間のことをすっかり忘れていた。
その後、ニロはずいぶん大人しくなり、変なことを仕掛けてくることもなくなった。送られてくる設計図が足りないということもなくなった。
ようやく夕方になり退社時間となった。安瑠はペンを投げ出し、荷物をまとめて帰ろうとした。上着を手に取った瞬間、何か重要なことを忘れているような気がした。
何だろう?
この三文字が安瑠の頭をよぎった瞬間、端正で冷たい美しい顔が彼女の潜在意識に飛び込んできた!
彼女は最も重要なことを忘れていたのだ!
安瑠は死にたい気持ちになった。慌てて壁の時計を見ると、すでに夕方6時だった。世紀グループがこの時間にまだ営業しているかどうかわからないが、今から急いで行けばまだ間に合うかもしれない…
彼女は急いで翡翠を出て、道端でタクシーを拾おうとしたとき、ポケットの携帯電話が突然鳴り出した。
安瑠は携帯を取り出し、素早く画面をスワイプして応答した。「もしもし?どちら様?」
電話の向こうは沈黙した。
正直言って、永川さんの電話に出る前に発信者を確認しない習慣は直した方がいい。
「もしもし?もしもし?」安瑠は道端に立ってタクシーを待っていた。今はちょうど退勤ラッシュの時間帯で、多くのタクシーはすでに客を乗せており、道路も少し渋滞していた。間に合うかどうかわからない。
「私だ」冷たくも深みのある魅力的な声が、まるで清風のように安瑠の耳に滑り込んできた。タクシーが来ないことにイライラしていた彼女の心は、一瞬にして落ち着いた。
でも…
でも!!
なぜこの声がこんなに聞き覚えがあるの!
安瑠はようやく違和感に気づき、携帯の画面を見た。そして彼女は完全に驚愕した。これは間違いなく武内衍の連絡先だ、電話番号も間違いない。
でも…彼がなぜ彼女に電話をかけてきたのだろう?