第228章 やはり事件が起きた

永川安瑠は彼女が自分をどこに連れて行くのか分からず、ただ彼女の後ろについて歩くしかなかった。

林田依人は安瑠を引っ張って古い階段を上り、上の階へと向かった。この工場は長い間放置されていたため、壁の大部分が腐食しており、錆びた手すりが周囲を囲んでいるだけだった。不注意をすれば、転落する危険があった。

安瑠は慎重に歩き、落下しないように気をつけていた。

依人は彼女を手すりに近い柱の前に押しやり、ロープを取り出して柱に縛りつけた。安瑠は両手をお腹の前に当てることで、ロープが締め付けるのを防いでいた。

この行動を見て、安瑠は彼らが何をしようとしているのかある程度理解した。

「永川安瑠、私はずっと言ってきたでしょう。私が受けた苦しみを倍にして返すって」依人は怒りをぶつけるように安瑠をきつく縛り、憎々しげに言った。

安瑠は細長い眉を寄せ、ロープの力の大部分を手で防ぎながら、自分の腹部をしっかりと守っていた。依人の惨めな顔を見ながら、心の中で感慨深く思った。

安瑠を縛り終えると、依人は彼女が逃げられないことを確認してから下に降りた。野方若秋は電話をかけているところだった。

武内衍が安瑠からの電話を受けたとき、最初は出るつもりはなかった。しかし、安瑠がずっと切らなかったため、何か異常を感じて電話に出た。

電話に出ても安瑠の声は聞こえず、わずかに車の走行音と男性の話し声だけが聞こえてきた。

彼はすぐに異常を察知し、電話の音に耳を傾けながら声を出さず、パソコンでGPS位置情報を開いて安瑠の現在位置を特定した。

彼女の位置は常に移動しており、速度も速かった。約30分後に停止し、その座標を拡大すると、それが廃工場であることが分かった。

安瑠が何の用事もなくそんな場所に行くはずがなく、電話をかけても話さないということは、話せない状況にあるということだった。

衍はすぐに決断し、橋本南に車の準備をさせ、自分で座標が示す場所へ向かった。

到着間際、見知らぬ番号から電話がかかってきた。相手は単刀直入に、永川安瑠を無事に生かしたければ2000万円を用意してXX工場に来るようにと言った。

彼の予想は正しかった。安瑠は確かに危険な状況にあった。