深谷千早の顔色が急変した。
「先に状況を見に行こう」藤原宴司は彼女の手を引き、大股で立ち去った。
車は直接、蓮城郊外の最も辺鄙なビーチへと向かった。
開発されていない地域で、一面荒涼としていた。
彼らが到着した時、通りにはすでに数台のパトカーが停まっていた。
明石和祺がパトカーの横で彼らを待っていた。
「どうなっている?」宴司は明石に尋ねた。
明石は恭しく答えた。「この間ずっと佐藤民夫を探すよう人を派遣していました。あらゆるルートに指示を出しましたが、一週間以上経っても何の成果もありませんでした。どこかで見落としがあったのかと思っていたところ、突然警察から電話があり、近くの漁師が海上で浮遺体を発見したと通報があったとのことでした。引き上げられた後、私が確認したところ佐藤民夫と佐々木文でした。死亡時期から判断すると、4、5日前のようです」
「つまり、我々が彼を見つけようとしてから彼が死ぬまで、わずか数日だったということか」宴司は冷たい目で言った。
「はい」明石はうなずいた。
「見てみよう」宴司はそう言ってビーチに向かおうとした。
千早が後に続いた。
「奥様も行かれますか?」明石は千早の行動に気づき、心配そうに尋ねた。
「ええ」
「少し光景が…」
「大丈夫です」千早はとても断固としていた。
明石は宴司を見た。
宴司は軽くうなずいた。
三人は一緒に人だかりに向かった。
警察は写真を撮っており、現場の法医学者が初期の検死を行っていた。
明石はさっきも見たが、今見ても水に浸かった遺体はほぼ原形をとどめておらず、心の準備をしていても吐き気を抑えるのが難しかった。
宴司も見ていて、少し気分が悪くなった。
彼は振り返って千早を見た。
千早はまばたきもせずに見つめていた。
彼女はずっとその人を見ていた。完全に変わり果てていたが、それが佐藤民夫だとわかっていた。
この人物は彼女の脳裏にあまりにも深く刻まれていた。
彼女は忘れることができなかったし、忘れる勇気もなかった。
彼女はずっと、これが母親の死因を解明する唯一の希望だと思っていた。
しかし今、その希望はもうない、ただもうない…
千早の瞳が微かに動いた。
大きな手が彼女の目を覆い、視界が暗くなった。
彼が彼女の耳元で言うのが聞こえた。「もう見なくていい」