春野鈴音は目を開けると、すぐに木村冬真のハンサムな顔と向き合うことになった。
ほんの一秒だけ、冬真は顔を背けて離れていった。
鈴音は少し呆然とした。
少し現実感がなかった。
冬真の冷淡な声が聞こえた。「起こそうと思ったところだ。早く準備しろ、私の時間を無駄にするな」
「あ、はい」鈴音は我に返り、急いで携帯のアラームを止めた。
寝坊するのが怖かったのだ。
彼女はベッドから出て浴室に行き、顔を洗って目を覚ました。
浴室の鏡を見ていると、ふと我を忘れた。
さっきのあの一瞬、彼女が目を開けた瞬間、冬真の若かりし頃の眼差しを見たような気がした。まるで深い感情が込められていたような…
見間違いだろう。
まだ朦朧としていたから、もしかしたら夢を見ていたのかもしれない。
鈴音はそれ以上気にすることなく、素早く身支度を整えると、冬真と一緒に出かけた。
車内では二人とも死んだように静かだった。
華やかで壮麗な藤原グループに到着した。
彼らはスタッフに案内され、彼らのために用意された作業スペースへと向かった。広々とした会議室には、いくつものメイクルームが区切られていた。
鈴音は到着するとすぐにメイクアップアーティストについて行き、メイクをしてもらいながら、あらかじめ用意されていたスーツに着替えた。
彼らが到着してすぐ、藤原宴司と深谷千早も現れた。
冬真は少し驚いた様子で「こんなに早く来たのか?」と尋ねた。
「早めに来て何か手伝えることがないか確認しようと思って。あなたの撮影スケジュールに支障が出ないようにね」千早は答えた。
「ああ」冬真も遠慮することなく受け入れた。
千早がいれば、本当に多くの面倒が省ける。
「ところで、さっきのあの人は…」千早はあるメイクルームを見て、「鈴音?」
冬真の表情がわずかに変化した。
彼は説明した。「こういう細かい仕事は、普通の俳優は受けないんだ。彼女なら大丈夫だろう」
千早はそれ以上質問しなかった。
もちろん、冬真が言うほど何気ないことだとは思っていなかった。
理屈から言えば、冬真は鈴音を憎んでいるはずで、彼女に仕事を回すなんてあり得ないはずだった。
準備が進む中、千早は後方支援のスタッフに朝食を買ってくるよう頼んだ。
こんなに早くから仕事をするなら、ほとんどの人は朝食を食べていないだろう。