今田由紀は急に起き上がり、佐藤陸の腕の中が空になった。彼は慌てて起き上がり、暗闇の中でその深く黒い瞳を由紀の悩みに満ちた小さな顔に固定した。
「可愛い子?どうしたの?」
彼は由紀の前に膝をついて座り、手を伸ばして抱き寄せると、由紀の体は簡単に彼の胸に倒れ込んだ。
「あなたに言いたいことがあるの〜それは...あなたが不機嫌になるかどうかわからないから、あぁ...やっぱりいいわ、言わないでおくわ!」
由紀は眉をひそめ、ピンク色の唇を尖らせながら、両手で陸の逞しい腰をしっかりと掴み、元気のない様子だった。
「それはダメだよ。僕の好奇心をそそっておいて、何も教えてくれないなんて。可愛い子、わざと陸兄さんを今夜眠れなくさせようとしてるの?もし陸兄さんがよく眠れなかったら、気分が悪くなって、明日仕事に行ったときにミスをしたらどうする?目もあまり良くないのに...」
陸は優しい攻勢を展開し、瞬時に由紀を降参させた。
「わかったわかった、言うわよ!」
「さあ、話して!」
陸は大きな手で彼女の柔らかい髪の頂をそっと撫で、軽くたたきながら励ますように言った。「心配しないで、僕は君を一番大事にしているよ、知ってるでしょ!」
「知ってるわ...知らないわけないじゃない、もちろん陸兄さんが私を一番大事にしてくれてるって知ってる...でもこのこと...あぁ...今日ちょっと外出したでしょ、それで道で誰に会ったと思う?!」
由紀は小さな頭を陸の胸から抜け出させた。部屋の中は隅にかすかな光が残るだけで、彼女の美しく清純な顔がぼんやりと陸の目に映った。
陸は身を乗り出して彼女の潤んだ唇にキスし、軽く啄むと優しく笑って言った。「誰?!」
もしかして榎本剛というクズ男に会ったのか?!
そうでなければ、この子がこんなに悩んでいるはずがない。
こんなに不機嫌なはずがない?!
「あのね...私の元カレの今の彼女、婚約者よ。あ、そうそう、彼女が言うには3日後に結婚するんですって。それで無理やり結婚式の招待状をくれたの。あなたにも送ったって言ってたけど、陸兄さん、受け取った?」
「ああ、それか...確かに細田が何かそんなことを言っていたような気がする。可愛い子が行きたくないと思っていたけど、行きたい?」
陸の深い瞳に狡猾な光が走った。