第020章 陸兄さん、私を触らないで

「暑い？！」佐藤陸はサングラスの下で目を輝かせ、今田由紀の体を触り回し始めた。「どこが暑いの？もしかして熱でもあるの？」

由紀は顔を上げて陸を見つめ、自分の体を触る手を払いのけながら言った。「陸兄さん、触らないでください。体調が少し悪いんです！」

「体調が悪い？」

陸がまた触り始めるのを見て、由紀は慌てて言った。「陸兄さん、熱があるわけじゃないんです。ただ...あの、ちょっとトイレに行ってきます！」

由紀は急いで陸の腕から逃れ、トイレに駆け込んだ。

トイレのドアが閉まるとすぐに、外で車椅子に座っている陸はガラスに映る由紀の影を見つめ、思わず口元に意地悪な笑みを浮かべた。

彼の小さな妻は本当に面白くて可愛らしかった。

そのとき、VIP病室のドアが外から開き、正装したタキシード姿の男性が入ってきた。彼は陸を見るとすぐに恭しく腰を曲げて言った。「旦那様、夜食の準備ができました。今お持ちしましょうか？」

陸が口を開く前に、由紀がトイレのドアを開けて出てきた。部屋に突然見知らぬ人がいるのを見て、彼女は驚いて叫んだ。「あなたは誰？」

「奥様、こんばんは！」

榎本執事は由紀に向かって恭しくお辞儀をした。由紀は眉をひそめ、自ら陸の側に歩み寄り、小声でつぶやいた。「あれ？もしかして私、寝ぼけてる？夢遊病？なんで部屋に人が増えてるの？この人が私を奥様って呼んだけど、どういう意味？」

彼女は陸の隣に立っていたので、陸は彼女の言葉をはっきりと聞いていた。彼は由紀の手を取り、入口にいる執事に言った。「持ってきてください！」

「かしこまりました、旦那様！少々お待ちください！」

由紀がぼんやりしていると、次の瞬間、三人の給仕がシルバーのカートを押して入ってきた。その後に続いて、同じ制服を着た女性のメイドたちが入ってきた。このような光景を由紀はテレビでしか見たことがなく、実際に経験するのは初めてだった。

彼女は心の中で不思議に思った。どうしてこんな人たちが突然来たのだろう？

彼らは食事を運んできたように見えるが、今の病院のレストランのレベルがこんなに上がったのだろうか？

六人のメイドたちはすでにカートを豪華なテーブルのように配置し、シルクのカバーが一つずつ開けられると、色も香りも味も完璧な料理が由紀の目の前に現れた。