第214章 由紀、あの男は危険だ

「離して、離れて、触らないで、どいて——」

今田由紀は心を引き裂かれるような叫び声を上げた。彼女は榎本剛がとても気持ち悪く、本当に吐き気がするほど嫌だった。

この男は、お金のために彼女を捨て、泉里香を選んだ。そして今、里香が困難に陥ると、婚約を解消して、自分のところに来て「ずっと愛していたのはお前だ」などと言う?!

ふん……

これは彼女が聞いた中で世界一おかしな冗談だった!

彼女はいったいどうしていたのだろう?

どうしてこの男を好きになったのか、彼のどこに惹かれたのか?

「もう騒ぐな、由紀。今は感情が不安定だ。ここから連れ出すから、おとなしくしろ。お前は昔から俺の言うことを聞いていたじゃないか?」

「昔?剛も昔という言葉を使うのね。昔はあなたは私の彼氏だったけど、今はただの他人。昔は愛していたけど、今は愛していた。たった一文字の違いだけど、その間には過去という大きな隔たりがある。その過去を思い出したくもないし、触れたくもない。私はもう、本当にあなたを愛していないわ、榎本剛!」

由紀は彼の腕の中で必死にもがいた。剛は体を固くし、彼女を抱き上げると、声が完全に冷たくなった。「俺を愛していないだと?まさかあの障害者を本当に愛しているとでも言うのか?自分を欺くのはやめろ。俺のような素晴らしい男を愛さないで、障害者を愛するだと?そんな理由、俺が信じると思うか?!」

剛は由紀を抱えて自分のランドローバーの横まで歩いた。

彼は由紀を下ろし、片手で彼女の体を抱きながら、もう片方の手でドアを開けようとした。

そのとき、由紀は突然体を回転させ、剛の腕に思い切り噛みついた。

「うっ……由紀?お前……」

剛は腕の痛みで由紀を放した。由紀は振り返って逃げようとしたが、剛は彼女の襟をつかみ、バンという音とともに車のドアに押し付けた!

「痛い……」由紀は痛みを訴え、胸が上下に動いて息をしながら、顔を上げて剛を睨みつけた。「いったいどうすれば私を放っておいてくれるの?どこに連れて行こうとしているの?行きたくないわ、家に帰るわ!」

「家だと?あの障害者の家にか?!」

「榎本剛、私の陸兄さんをそんな風に言わないで!あなたにはその資格がないわ!」