「もう命の危険はありません。佐藤兄さんは体が丈夫だし、麻酔をかけて傷口も縫合しました。今夜熱が出なければ、明日には帰って静養できますよ」
「帰る?どこへ?俺は兄さんを病院に残すか、直接俺の家に連れて行くべきだと思う。とにかく兄さんをあの家に戻すのには反対だ。あの女は自分のことすらまともに面倒見られないし、毎日兄さんを悩ませて、兄さんは彼女のせいで心身ともに疲れ果てている。今回の怪我だって、彼女が原因じゃないか。そんな状態で兄さんを戻して、彼女に看病なんてできるわけがない!」
渡辺直樹は佐藤陸の怪我の大半が今田由紀に原因があると思うと、彼女を絞め殺したい気持ちになった。
森信弘はそれを聞いて、強く反対した。「直樹、お前のその短気はいつになったら直るんだ。佐藤兄さんの問題に首を突っ込むな。奥さんがどんなに騒ごうと、それは兄さん自身の問題だ。夫婦の問題にお前が口出しする権利があるのか?兄さんはさっきから運ばれてきた時からずっと彼女の名前を呼んでいたんだぞ...」
信弘は佐藤が「可愛い子」と何度も呼んでいるのを聞いていた。自分があんな状態なのに、まだ家にいる由紀のことを心配していたのだ。
佐藤兄さんは由紀に深い愛情を持っている。夫婦がどんなに揉めようと、友人である彼らには口を出す権利はない。
特にあの女性は佐藤兄さんにとって本当に大切な存在で、意識不明の中でも彼女のことを思い、名前を呼んでいた。
それだけでも!
信弘は断言できる。もし佐藤が直樹の今の言葉を聞いたら、二言目には言わせず直樹を殴り飛ばしたいと思うだろう!
「わかったわかった、お前らの言うとおりだ。今夜は俺が見ていよう。お前らは帰れ」
「お前、見てみろよ。その血だらけの服で、人を驚かせる気か?お前こそ帰れ。俺が見ているから」
中村智也が言った。「信弘、お前も疲れただろう。今日は何度も手術をしたんだから早く休みな。今夜は俺が見ているから大丈夫だ」
……
佐藤陸が危険を脱した深夜、智也はトイレに行った。戻ってきたとき!
ベッドにいるはずの佐藤の姿が、どこにも見当たらなかった!!!
……
今田由紀はバッグを肩にかけ、犯人との待ち合わせ場所である北大橋のダムに到着した。
北大橋はこの本庄県の海上密輸ルートとしてよく使われる場所で、人里離れた複雑な地形に、入り組んだ多くの通路がある。