佐藤陸はすでにドアを開けて車から降りていた。今田由紀は彼が降りた後になって、何かがおかしいと気づいた。
「陸兄さん、どこに行くの?!どうしたの?!」
「ごめん、まだ終わらせていないことを思い出したんだ。後で戻るから、先に帰っていて!」
由紀は彼が不器用に車椅子を動かす姿を見た。陸は振り返ることなく進み、その声は寂しげで掠れていて、後ろ姿はさらに悲しげに見えた。
「陸兄さん、あなた……」
由紀が車から降りようとした時、前の運転手が突然降りてきてドアを閉めようとした。
「ドアを閉めないで、乗らないから乗らないから!」由紀は車から飛び降りた。
心配のあまり足を踏み外し、前につんのめって——
「あっ——」
由紀は地面に倒れ込み、悲鳴を上げた。
陸は怒っていたが、由紀の前で不満を見せたくなかった。彼女を傷つけたくなかったので、車を降りて少し冷静になってから戻るつもりだった。
後ろから聞こえた悲鳴に、陸はすぐに車椅子を回転させた。
目に入ったのは地面に倒れた由紀の姿で、白く柔らかな手のひらから赤い液体が滴り落ちていた。
陸は眉をひそめ、心が慌てふためいた。「妻!」
彼は素早く車椅子を前に進め、その時運転手が何か言おうとしていた。
由紀は彼が自分のケガについて話すのを恐れ、すぐに指を唇に当てて小声で「しーっ」と合図した。
彼女は運転手に向かって首を振った。運転手は陸を見て、由紀を助け起こそうとはしなかった。
代わりに彼はただ脇に退き、この件が自分とは全く関係ないかのように振る舞った。
「陸兄さん、いたっ〜大丈夫だから……どこに行くつもりだったの?家に帰ろうよ!」
由紀の手のひらは擦り傷ができ、眉をひそめながら痛みに息を吸い込んだ。
彼女は本当に役立たずだと思った。車から降りるだけでも転んでしまうなんて。でも陸兄さんには言えない、彼はきっと心配するから。
由紀は手を何度か振って、地面からやや苦労して立ち上がった。
足はしびれたように感じ、目は少し赤くなり、委縮した様子で陸を見つめたが、不満の言葉は一言も口にしなかった。
自分が役立たずなのだ。自分のことさえ上手く世話できないのに、どうやって陸兄さんの面倒を見られるだろう。
彼女は陸と一緒になってから、特に甘えん坊になったと感じていた。