榎本剛が言い終わるか終わらないかのうちに、佐藤陸は車椅子を動かし、榎本の足の甲を容赦なく踏みつけた。
「あぁっ——くそっ、痛い、佐藤、お前まさか故意にやったのか、お前あぁぁぁ……」
榎本は足の甲がバキッと音を立て、痛みで力が入らなくなり、尻もちをついて悲鳴を上げた。
佐藤はそれを聞いて、少し無邪気な様子で言った。「すみません、申し訳ありません、榎本さん。私は見えないんです、ご存知の通り。あなたの足がどこにあるのか分からなかったんです。故意じゃありません、妻……」
佐藤は言い終わると今田由紀の方を向いた。由紀は驚いた表情を隠す間もなく、佐藤の助けを求めるような表情を見て、保護欲が高まり、佐藤をかばって言った。「榎本剛、陸兄さんは故意じゃないわ。彼は見えないのよ、あなたも知ってるでしょ。誰があなたに私たちの前に立ちふさがれって言ったの?怪我したからって私たちのせいにはできないわ。私たちは普通に歩いていただけ。あなたが勝手に割り込んできたのよ。これは陸兄さんには全く関係ないことよ!」
「あいつは絶対わざとだ、痛くて死にそうだ……」榎本は歯を食いしばって叫び、額に汗をびっしょりかいて、地面で転げ回っていた。
そのとき、ゆっくりと近づいてきた柴田恵美は、息子が地面で転げ回っているのを見ると、急いで前に出て、由紀を押しのけながら怒鳴った。「この小娘、うちの息子に何をしたんだ?息子、大丈夫か?息子……」
彼女は由紀を一度押しやると、しゃがみ込んで榎本を支え、心配そうに尋ねた。
由紀は少し後ろめたさを感じていた。榎本のことは確かに佐藤と関係があったし、榎本は自業自得とはいえ、彼女は賠償金として少しお金を残すべきか考えていた。
しかし彼女がその親切な考えを口にする前に、柴田が彼女に向かって罵声を浴びせるのが聞こえた。「今田由紀、この売女が、お前はもう息子に振られたくせに、また息子の前に現れて誘惑するつもりか?本当に下劣で恥知らずね、お前のその卑しい姿は見るだけで吐き気がする。普段は清純ぶってるくせに、こんなに手ひどいことをするなんて。うちの息子がお前を捨てたからって、こんな風に息子を苦しめるのか、この腐れ女!」
由紀は柴田にすっかり頭にきていた。この女は頭がおかしいんじゃないか。いつ彼女が息子に付きまとっていたというのだろう?