泉里香はまだ榎本剛を食い殺しそうな邪悪な表情を浮かべていた。柴田恵美はその様子を見て、自分の息子をかばい続けた。「里香、剛のことを怒らないで。明日彼が酔いから覚めたら、おばさんが代わりに叱ってあげるから。もう遅いし、二人とも洗って寝なさい!」
柴田恵美は出て行く前に、もう一度榎本剛に視線を向けた。剛はその瞬間、心身ともに疲れ果てたと感じた。
本当は泉里香と幸せに暮らすために苏浅离を捨てたのに、なぜ今、里香と一緒にいるのに、心がこんなにも煩わしく感じるのだろう?
恵美からのプレッシャーに加え、泉家の強引さ。彼はかつて憧れていた素晴らしい愛が徐々に失われていくのを感じていた。
そして目の前の里香も、彼の目には最も完璧な存在とは思えなくなっていた。
剛と恵美が里香に引き下がる余地を与えたので、里香も愚かではなく、それ以上追及しなかった。
あのピンク色のクッションが榎本美沙のものかどうかは、もはや重要ではなかった。
彼女こそがこの家の中心であり、泉家も榎本家も彼女一人を中心に回るべきだった。たとえ今、剛の心の中にあのあばずれの存在があったとしても、彼女は彼にゆっくりと忘れさせ、最後には誰が彼を最も愛している女性なのかを知らせるつもりだった。
「先にお風呂に入るわ。全身が酸っぱい臭いで、本当に耐えられないわ。私を待たなくていいから!」
里香は眉をひそめ、不機嫌な口調で言った。
剛は里香が浴室に入っていく後ろ姿を見つめ、瞳には痛みと後悔が満ちていた。彼は心の中で思った、これが自分の求めていた幸せなのだろうか?
里香は以前、彼と一緒にいた頃はこんなに気難しくなかった。今では彼のわずかなアルコールの匂いさえ我慢できないなんて。以前は彼をよく世話してくれて、彼を感動させることをたくさんしてくれたのに、あれは全て演技だったのだろうか?
今思えば、彼がまだ海外に行く前、彼が酔っ払うたびに、今田由紀は疲れも厭わず一晩中彼のそばで彼を看病し、朝には朝食を用意してくれた。彼はいつも彼女の作ったものがまずいと文句を言っていたが……
剛は由紀との過去を思い出し、自分が不機嫌になるたびに、あの子がどれほど慌てふためいていたかを思い出した。本当に……可愛かった!
今になって、彼は彼女のいわゆる「鈍さ」や「間抜けさ」さえも、とても愛らしく感じるようになっていた。