星野寒は眉をひそめ、秋山伊人に返事をせず、一瞥もくれなかった。代わりに広田崇に目配せした。
広田は即座に一歩前に出て、伊人の腕を支え、小声で心配そうに尋ねた。「伊人さん、大丈夫ですか…」
秋山は顔色が真っ青で、明らかに笑顔を維持できなくなっていたが、それでも無理に唇を引き上げ、初陽を見つめ、謝意を込めた。
「ごめんなさい初陽、そこまで深く考えていなかったわ。彼らが死ぬほどの罪ではないと感じただけで、あなたの気持ちを全く考えていなかった。私の…さっきの言葉は、なかったことにしてくれる?」
その哀れで可愛らしい様子に、初陽は内心で冷笑した。
しかし彼女はそれを表に出さず、むしろ心配そうな表情で伊人を見つめた。
「伊人はさっさと帰りなさい。あなたはね、こういうあなたに関係のないことに首を突っ込まないで、体を休めて自分をしっかり大事にするのが一番の仕事よ。あなたを心配している人を悩ませないように…」最後の言葉を言いながら、彼女は目尻で星野を一瞥し、言葉を切った。
彼女がこれほど明らかに伊人を牽制したのに、あの哀れな様子を見ていると彼女自身が心を痛めるほどなのに、この男はまだ反応しないの?
星野は彼女の視線に気づいたのか、軽く彼女を見た。
二人の目が合い、彼の目は明るく輝き、そこには嵐が渦巻いているようだった。
息が詰まり、彼女は唇を噛み、視線をそらした。
星野は服の裾に垂れた手を強く握りしめ、初陽から視線を外し、伊人の傷ついた哀れな眼差しを無視して、広田を見た。
「広田は初陽の言う通りにして、それから伊人さんを送り届けなさい…」
指示を終えると、誰にも目を向けず、後部座席のドアを開けて車に乗り込んだ。
初陽は体が硬直した。彼が自分の提案に同意するとは思っていなかったし、彼女が伊人を牽制したことで怒りを見せるどころか、まったく気にしていないようだった。
おかしい、前世の彼はこんなではなかった。
伊人の前では、彼の目には他の誰も映らなかったはずだ。
今、これはどういうこと?
呆然としていると、視線を感じて我に返り、顔を背けた。
「発車…」
男の一言で、村田は「はい」と返事し、アクセルを踏んだ。
車は神速の矢のように、闇の中へと飛び込んでいった。
初陽は目を細め、バックミラーに映る伊人の、涙を浮かべそうな美しい顔を見つめた。