初陽は手に持った台本を握りしめ、唇を緩めて微笑んだ。「石川先生は何をお話したいのですか?」
石川桐人は傍らにいる可美をちらりと見て、何か言いにくそうな様子だった。
「少し離れて話せますか?」
「もちろん……」初陽は台本を可美に渡すと、先に険しい山道を歩き始めた。
桐人は春木錦がいる方向に視線を走らせ、目を伏せると、可美を見て低い声で言い聞かせた。「誰にも邪魔させないように……」
可美は桐人の端正な顔立ちを見て、一瞬うっとりとした後、慌てて頷いた。
桐人はポケットに両手を入れ、ゆったりとした姿勢で長い脚を踏み出し、初陽を追いかけた。
美男美女の姿は、まるで美しい絵画のように可美の目に映った。彼らのシルエットは水墨画に溶け込むように、かすかな白い霧に隠され、彼女とは別世界のものとなった。
桐人は、彼女の手の届かない夢だった。
……
山々は静寂に包まれ、周囲は青々とした緑に覆われていた。冬になって葉を落とした木もあれば、四季を通じて緑を保つ木々もあった。
目に入る景色は、山と川が交錯し、蛇行する小川が延々と続く緑豊かな森林と山々の間を流れ、霞のように雲のように、映し出される景色はまるで絶景の山水画のようだった。
朦朧とした霧のように美しく、触れればすぐに散ってしまいそうだった。
初陽は山頂に立ち、目を閉じてゆっくりと息を吐き出した。全身が特別に清々しく感じられた。
前世では、彼女の運命は険しく、前半生を孤児院で過ごし、一日三食の食事さえままならず、旅行に行ったり山水の景色を見たりする機会などなかった。
後半生は、星野寒が彼女のために建てた城のような家で、おとなしいウサギのように静かに暮らし、外に出ることもなく、人に会うことを恐れ、彼に迷惑をかけることを恐れていた。
だから、彼女は目の前のこの美しい景色を見たことがなかった。
初陽は考えるだけで悲しくなった。前世の彼女は、生きていても無駄だったのだ。
今世では、誰も彼女の運命を左右することはできない。
「実は初めて会った時、嘘をついていました……」桐人の冷たい声がゆっくりと響いた。
初陽は目を輝かせ、少し困惑して彼を見た。「どんな嘘ですか?」
「実は私はあなたに会ったことがなかったし、徳陽高校に通ったこともありませんでした……」桐人は穏やかな声で答えた。