第76章 怖がらないで、私がいるから

何の前触れもなく、暗闇の中、田中越たちが駆け寄ってくる時、彼はこうして不意に彼女にキスをした。

薄い唇が彼女の唇に触れ、彼特有の清涼な息吹がゆっくりと彼女を包み込んだ。

初陽の頭は真っ白になった。この奇襲があまりにも突然で、彼女はしばらく反応できなかった。

血液が一気に顔に上り、彼女は黒く輝く瞳を見開いたまま、呆然と彼を見つめていた。

男の瞳は明るく輝き、まるで夜空に煌めく星のようだった。

また、底知れぬ深い淵のようでもあり、計り知れない神秘を秘めていた。

そう、長年の付き合いがあっても、二つの人生で彼と向き合っても、彼女は彼を本当に理解したことがなかった。さらに、彼が今何を伝えようとしているのかも分からなかった。

もし彼が彼女を利用しているだけで、彼女の心臓が欲しいだけなら、このように自ら率先して彼女を誘惑し、彼の優しい攻勢に一歩一歩陥れる必要はないはずだ。

このような情熱的なキス、このような甘い愛情の糸は、彼のような人には似つかわしくないはずだった。

たかが一つの心臓のために、彼が自分の体を捧げ、一歩一歩彼女を征服する価値があるのだろうか？

彼の手段と権力をもってすれば、脅しや誘惑で彼女の翼を切り落とし、彼女を監禁することもできたはずだ。

前世でも今世でも、彼は彼女に対して一度も強引なことをしたことがなかった。

前世では、彼女は彼の優しさに溺れ、進んで自らの牢獄を作り、黙って彼のそばにいて、離れることなく、不満も後悔もなかった。

今世では、彼はまた同じ手を使おうとしているのだろうか？

何度も繰り返される親密な行為、何度も繰り返されるキス、彼は一体何がしたいのだろう？

両手で彼を押しとどめ、小さく笑って言った。「星野社長、こんな親密なキスは、私たちには相応しくないわ……」

しかも、こんな危険が四方を取り囲む場所で。

寒の瞳は深く、腕の中の彼女を見つめていた。薄暗い月明かりの下、彼女の顔の輪郭が彼の瞳に朧げに映っていた。

すぐそばにいるのに、彼女のこの一言で、咫尺千里の距離を感じた。

沈黙、言葉のない沈黙。

冷たい空気の中、胸を締め付ける痛みが、層を成して広がっていった。

その時、田中越たちはすでに追いついて、彼らを中央に包囲していた。