彼女はしばらく恍惚としていて、一瞬のうちに時の流れがどれほど経ったのか分からなくなっていた。
「村田、なぜ彼女を連れてきた?」眉を少し顰め、冷たい眼差しで村田城を一瞥しながら、陰鬱な声で尋ねた。
初陽はハッと我に返り、城に自分を下ろすよう合図した。
城は返事をする勇気もなく、急いで初陽を下ろすと、数歩後ずさりして鼻をこすりながら、へへと笑い、自分が透明人間になろうとした。
その時、初陽はその場に立ち、数道の視線が彼女に注がれた。
星野寒は顔を引き締め、初陽の薄い衣服を見つめ、眉を顰めた。
広田崇を一瞥すると、崇はすぐに理解し、サッとバルコニーから出て行った。
「初陽、足はどうだ?」黒川源は心配そうな表情で、大股で前に出て、彼女の手首をつかんで尋ねた。
初陽は顔を上げて見つめ、思わず口元を緩めた。
この源は面白い人だ。女性関係がめちゃくちゃなのに、まだ彼女に近づこうとするなんて?
しかし、その眉間の心配は本物のようだった。
「大丈夫よ、一番辛い時期はもう過ぎたわ…」そして視線を変え、青ざめた顔で床に座り込んでいる東雲敏に向けた。「あら、これは誰?なぜ床に座ってるの?源、城から聞いたけど、彼女はあなたの子を身ごもってるんでしょう?妊婦をこんな風に扱うなんて、早く彼女を助け起こしてあげなさいよ…」
源の手を振りほどき、彼女は眉を上げて源を見た。
源は鋭い眼差しで初陽を見つめた。
「お前…」
「何よ?早く彼女を助け起こしなさいよ、大事に扱って。結局は黒川家の血を引いているんだから」彼女は源を見ながら静かに言い、それから視線を星野寒に向けた。「星野社長、黒川翁の顔を立てて、敏を許してあげてはどうですか?結局、子があれば母は貴いのですから…」
「……」寒は黙っていた。
言葉が落ちると、冷たい風が吹いた。
日差しは明るかったが、薄い病院着一枚だけを着ていた初陽は、思わず体を震わせ、寒さを感じた。
次の瞬間、崇がウールのコートを持って急いで走ってくるのが見えた。
ぼんやりしている間に、そのコートは彼女の肩にかけられていた。
「葉山さん、着てください。風邪をひかないように」崇は寒を見て、後者がうなずいて合図すると、小声で言った。
初陽の心は震え、温かさが一瞬で全身を包んだ。