春木錦の涙は乾いたばかりだったが、星野寒のその言葉によって、止めどなく流れ落ちた。
「星野さん……」彼女は声を震わせ、少し恨めしげに彼を呼んだ。
見えなかった?それはどういう意味だろう?もしかして寒は初陽が彼女に乱暴な態度を取ることを黙認しているのだろうか?
かつて、彼女は寒の前では人をいじめる側だった。それなのに今、寒は葉田初陽が彼女を好き勝手にいじめ侮辱するのを許しているのか?
しかし、始めから終わりまで、彼は彼女を一度も見ることはなかった。寒の目には初陽の姿だけが映っていた。
初陽も一瞬驚き、少し疑わしげに寒を見た。
「目が見えないの?」
「ああ……」寒は少し唇を引き締め、淡々と一言答えた。
初陽は口元をひきつらせた。珍しい、自分から進んで目が見えないと認める人がいるなんて。
寒は一体何をしているのだろう?
最近ますます様子がおかしい。先日彼女が意図的に秋山伊人に挑発した時も、彼はずっと沈黙を貫いていた。
そして今日、彼女が悪意を持って錦をいじめたのに、彼は自分が目が見えないから、彼女が錦をいじめる場面が見えなかったと言うのか?
おかしい、寒はどうしてこんなに変になってしまったのだろう?
「頭おかしい……」初陽は小声でつぶやき、自ら興ざめして、先に立ち去ろうとした。
邪魔する人がいなくなると、錦はまた羊の皮を被った小狐になった。彼女がこれほど錦をいじめたのに、錦は顔色一つ変えず我慢し、ただ弱々しく可哀想な振りをしている。
この弱々しさと可哀想さは、寒のような男性に効果があるはずだ。男というものは皆、女性を大切にし、生まれながらに保護欲を持っているのではないか?
もし寒が錦の味方をするなら、彼女は必ずこの機会を利用して、離婚を切り出すつもりだった。
結果、寒は自分が目が見えないと認めた。
まあいい、彼女はまた読みが外れたようだ。
歩きながら、彼女は深く考えていた。寒はどうやって一歩一歩今の姿になったのか、どこかおかしくなってしまったのだろうか?
前世では、伊人は寒にとって、まさに誰も触れることのできない禁忌だった。
そして錦も、寒の心の中で小さくない位置を占めていた。
今や、この二人はもはや寒の底線や禁忌ではなくなっており、初陽は疑問を感じずにはいられなかった。