エレベーターのドアが開くと、記者たちが恐怖に震えながら押し寄せてきた。初陽は驚いて慌てて脇に避けた。
記者たちが一人一人、顔色が青ざめ、恐怖に満ちた表情で、足早に初陽の前を通り過ぎていく。
小さな会話が少しずつ初陽の耳に入ってきた。
「怖すぎる。あの殺気。もし私たちが遅れて逃げていたら、命が危なかったかもしれない。誰かあの男が誰か知ってる?」
「シーッ、声を小さく。聞かれたら大変だ。教えてやるが、あの人は...雲田陵光という。東都の人物で、父親は東都で高官を務める大物だ。我々如きが敵に回せる相手じゃない」
「東都の大物?なぜ今まで外部に情報が漏れなかったんだ?我々の涼城にいつからこんな大物が隠れていたんだ?それに、陵光と春木錦が知り合いだなんて聞いたこともない。もしこの関係を前もって知っていたら、死んでも今回の取材には来なかったよ」
「そうだよ。春木錦の後ろにこんな手を出せない大物がいるって知っていたら、彼女が人殺しや放火をしても報道できないよ。一体誰がこの虐待情報を我々に流したんだ?殺されるところだったじゃないか」
「バックグラウンドが恐ろしいだけじゃない。重要なのは陵光自身も善人ではないということだ。普段は極めて控えめな振る舞いだが、彼の底線に触れると、その手段の残忍さは我々の涼城の星野社長にも劣らないぞ。しかも、彼は星野社長とも親交があるらしい...」
「もう話すのはやめよう。怖くなってきた。早く逃げよう。命が危ない。さっき陵光に抵抗せず、撮影機材を素直に渡して本当に良かった...」
記者たちは大敵に直面したかのように、口を閉ざし、尻尾を巻いて素早く逃げ去った。
初陽の心は沈み、歯で唇を強く噛んだ。
あと一歩、最後の一歩で成功するところだった。
まさか途中で雲田陵光が現れるとは。
この男は、春木錦とどういう関係なのか?
初陽は諦めきれなかった。勝利が目前だったのに逆転され、一瞬で敗北の様相を呈したことが。
辺りを見回し、ホテルのロビーが混乱している隙にエレベーターに乗り込んだ。
エレベーターはすぐに10階に到着し、ドアが開くと、初陽は服の裾をぎゅっと握りしめながらゆっくりと外に出た。
廊下は静寂に包まれ、空気中には死のような気配が漂っていた。
「あぁっ...」突然、廊下の奥の個室から心を引き裂くような叫び声が聞こえた。