初陽の瞳に狡猾な光が走り、唇を曲げて微笑むと、春木錦に手を差し出して和解を示した。
「私は大丈夫です。春木先生、握手して和解しましょう。これから対決シーンがありますし、わだかまりがあると撮影の進行に支障が出ますし、お互いの演技にも影響しますから……」
初陽は自分の姿勢を低く保ち、言葉も誠実だった。
周りの人から見れば、初陽は明らかに不当な扱いを受けたのに、その屈辱を耐え忍んで、先に和解を申し出て譲歩したように見えた。
春木錦がなかなか反応を示さない中、初陽は焦る様子もなく、唇の端を緩やかに曲げ、澄み切った瞳で手のひらを差し出したまま、春木錦を見つめていた。
空気は一気に冷え込み、錦は警戒心を露わにして初陽を凝視し、握手にも応じず、言葉も返さなかった。
彼女には理解できなかった。この狐のように狡猾な女が一体何を企んでいるのか。
周囲の人々は、次第に見ていられなくなってきた。
「この春木錦って人、ひどすぎない?最初に手を出して初陽さんを殴ったのは彼女なのに、初陽さんが気にしないで握手して和解しようとしてるのに、春木錦はまだ意地を張ってるなんて」
「そうよね、あの態度は大きすぎるわ」
「ねえ、さっきの可美と春木錦の件、何か裏があるんじゃない?」
「錦は可美が自分をいじめたって言ってたけど、私が見る限り、真相はそうじゃないと思うわ。可美さんは全身傷だったじゃない。顔は酷く腫れてたし、膝も腕も血が出てたのよ」
「はぁ……考えてみれば皮肉なものね。春木錦は可美さんが一手に育て上げた人なのに、有名になったとたん、このマネージャーを蹴り出すなんて。もう一緒に仕事しないなら、どんな恨みがあって、春木錦のボディーガードがあそこまで可美さんに暴力を振るったのかしら?」
「まったく、世も末ね、人の心はほんとに冷たくなったわ……」
春木錦はそれらのひそひそ話を聞いて、顔色が青くなったり白くなったりした。
可美との対立で、彼女は何とか状況を逆転させ、先手を打って人々の心を掴んだのに、一瞬のうちに葉田初陽の数言で完全にひっくり返されてしまった。
錦の心中は怒りで満ちていた。胸の中で猫の爪が引っ掻いているような感覚で、時間が経つほど、心の中の怒りの炎はさらに掻き立てられていった。
初陽は余裕の表情で、春木錦が和解の手を取らないなら、自分から攻めることにした。