確かに近いうちに結婚する予定がある

棚木知恵は皆が見えなくなった時、シャッターを押した自分の手を強く叩いた。

どうして我慢できなかったんだろう!

どうしてもあの写真を撮りたいなんて!

三人が会議室に入ると、知恵は二度と勝手に写真を撮らないようにと誓い、バッグからノートを取り出して記録の準備をした。

秘書が茶を出し終えると、橘文成は口を開いた。「石丸社長、こんにちは。私たちは江都テレビ局の経済チャンネルの記者で、今回のインタビューを担当しています」

「直接質問してください」

「はい」

文成のインタビューは手慣れたもので、質問は鋭くないが、要点を突いていた。

英庭はそれなりに協力的で、文成に伝えられる情報は隠さなかった。

知恵は記録しながら学び、なるほど大学の指導教官が文成について学ぶよう強く勧めたわけだと思った。

二十分後、知恵は少し手が痛くなってきた。

英庭は話すのをやめ、水を飲み始めた。文成は機転を利かせてインタビューを中断し、自分も水を飲みながら、知恵の記録の様子を確認した。

知恵はノートを文成に渡した。

彼女は英庭が水を飲み終えるのを見てから口を開いた。「石丸社長の許可なく写真を撮ってしまったのは私の非礼でした。その写真を削除した方がよろしいでしょうか?」

「見せてください」

知恵はカメラを取り出し、英庭に渡して自分で探してもらおうとした。

しかし特別秘書が言った。「社長はカメラの使い方がわかりません」

知恵は少し戸惑ったが、すぐに写真を表示して再びカメラを差し出した。「石丸社長、これです」

英庭は動かず、眉を上げて彼女を見上げただけだった。

二人の距離はそれほど遠くなかった。

しかし英庭は立ち上がれないので、受け取りに行くことはできなかった。

しばし目を見合わせた。

もし彼女が近づいたら、英庭に五メートルも蹴飛ばされるのではないかと思った。

この方は女性を精神病院に追い込むほど暴力的な大物だ!

知恵は脳内で英庭に近づいた時に、彼の「嫌悪」「拒絶」の表情を高速再生しながらビビっていた。

「知恵、早く行きなさい」

文成はテーブル下で足を蹴ってきた。

知恵は咳払いをして、仕方なく立ち上がり英庭の側に行き、カメラを彼の前に置いた。

すると、どこからかふわりと漂ってくる淡い墨竹の香り。

変だね、この部屋には香水もアロマもないのに。

どこからこの香りが?

英庭は知恵の気が散っていることに気づかなかった。

カメラの中の写真は上手く撮れていた。黒いカメラを握る繊細な手、指先は細やかで美しく、若々しかった。

彼女の手首は細く、五本の指で握れば、簡単に彼女の手首の内側に触れ、脈拍の鼓動を感じることができるだろう。

「石丸社長、削除しますか?」

英庭は視線を戻し、顔を上げると知恵が体を横に向けて彼との距離を保とうとしているのが見えた。

「とても良い写真です。削除する必要はありません」

知恵は彼が自分を褒めていると感じた。

口元がほころび、少し得意げな様子を見せた。

英庭は彼女の得意げ様子を見て、注意した。「ただし、写真は外部に漏らさないでください」

「わかりました」知恵はルンルン気分になり、「写真を加工したら、必ず石丸社長にもお送りします」と言った。

英庭は良いとも悪いとも言わなかった。

文成は英庭が今日はとても機嫌が良いように思え、内心で考えた。やはり知恵は英庭と何か接点があったのだろう。この後、英庭のプライベートについて少し探れたらもっと良いのに。

人間は誰でも噂話が好きだ。

特に英庭の噂となれば尚更だ。

文成は咳払いをして、知恵に目配せした。

知恵:来るべきものは来るんだな。

彼女はカメラをしまい、しばらく気まずい思いをした後、さりげなく尋ねた。「石丸社長は普段忙しくない時、どんな趣味をお持ちですか?」

文成:「……」

これだけ?

彼が知りたいのは英庭の恋愛事情で、最低でも何人の彼女と付き合ったかを聞けって!

こんなつまらない趣味の質問ではなく!

文成がまだ反応する前に、英庭はすでに答えていた。

「競馬を観ることです」

競馬は海外発祥のもので、特に調べなければ、競馬が一体何なのかさえわからないだろう。

文成は英庭の足を見た。

彼はすでに記事の小見出しを考えていた。

「財界のカリスマ・石丸英庭──夢は騎手、運命の皮肉」

知恵はきっとずっと前から英庭が競馬観戦を好むことを知っていたから、この質問をしたのだ!

誤解して悪かった!

文成は目を輝かせ、さらに続けた。「石丸社長は事業では素晴らしい成果を挙げられていますが、プライベート――特に恋愛面での展望は?」

ちょ、先生!その質問はまずいってば!

あの石丸英庭に、そんなこと聞いたら……!

しまった!

英庭はきっと怒るに違いない!

知恵は恐る恐る英庭の様子を伺った。

彼は文成を一瞥したのち、不意に知恵の視線とぶつかった。

低く心地よい声が知恵の耳元で響いた。「最近、確かに結婚の予定があります」

帰りの道中、文成はまるで第二の青春が来たかのようにハイテンション。

一方、知恵は幽霊でも見たかのようだった。

英庭が結婚の予定があると言えるなんて……

これは和蓉の言っていたことと少し違うじゃないか!

放心状態の知恵が我に返ると、文成がもはや車を飛ばしていき、この学生の彼女を置き去りにした。

知恵:「……」

先生、私の存在、完全に忘れてるよね。

「棚木記者」

まだそれほど遠くに行かないうちに、知恵は呼び止められた。

振り返ると、英庭の特別秘書だった。

「棚木記者は橘記者の車で来られたのですね?先ほど橘記者が先に帰られたのを見ましたが、お送りしましょうか?」

知恵は恐縮した。「いいえ、結構です。ここは地下鉄の入口に近いので、地下鉄で帰ります」

「それもいいでしょう」特別秘書はこれ以上強く勧めなかった。

すぐに彼は携帯を取り出し、優しい声で言った。「棚木記者の連絡先を頂けませんか?いつかその写真を送っていただければと思います」

どうせ写真は英庭に渡すのだから、彼の特別秘書に渡しても同じことだ。

知恵は彼と友達登録をした。「今晩にでも写真をお送りしますね」

「ご無理なさらず」

特別秘書は丁重に言った。「お気をつけて」

「さようなら」

知恵は地下鉄の入口に向かって歩き始めた。

一方、特別秘書は携帯を持って会社の社長室に戻った。

携帯を英庭に返しながら、「社長、棚木さんの連絡先を追加しました」

英庭は書類に署名を終えたところで、携帯を受け取り、ソフトウェアの画面を見た。

今追加された人物は、まさに棚木知恵だった。

「帰っていいよ」

特別秘書は心得たように退室した。

車椅子が音もなく回転し、大きな窓の方を向いた。だが彼の視線は、手にしたスマホの画面に釘付けだった。

……時に、多少卑劣でも効果的な手段というのはあるものだ。

彼は知恵の「友達のタイムライン」を開いた。

今のところ、知恵はまだ彼をグループ分けする時間がなく、知恵の「友達のタイムライン」を見ることができた。

この子の大学生活は多彩で、時々ボランティア活動に参加したり、サークルの仲間と外出取材したりしていた。

彼女が自分で撮った写真もいくつかあった。

どれも美しく素晴らしかった。

英庭は1枚1枚をじっくり眺めるうちに、いつのまにか夜になっていた。

秘書がそっとドアをノックした。「社長、こちらは財務部が作成した財務分析です」

英庭はスマホを閉じ、冷静な声で言った。「持ってこい」

仕事が終わり、帰宅してから夕食をとりながら、続きを見るつもりだった英庭。

だが再びタイムラインを開くと、画面中央にはこう表示されていた。

「最近3日間の投稿のみ表示されます」

英庭:「……」