第65章 試してみたいですか？

棚木知惠は呆然として、混乱した頭でまだ理解できずにいた。「車の中で、荷物を運んでくださるとおっしゃったじゃないですか？」

彼はゆっくりと答えた。「君は具体的にどこに届けるか言わなかったから、福田が荷物を京市の家に運んだんだ」

知惠は言葉に詰まった。「メッセージを送ったじゃないですか？」

石丸英庭は自分が無視したメッセージをちらりと見て、「すまない。今日は支社で業務を処理していて、携帯を見る余裕がなかった」

知惠は落胆したが、英庭が嘘をついているとは疑わなかった。

結局、彼はあれほど大きな企業グループを管理しているのだから、一、二通のメッセージを見落とすのは当然のことだった。

「今、福田と森本は夕食に出かけているよ」

英庭は気遣って尋ねた。「荷物を届けてもらう必要はある？」

知惠は人に迷惑をかけたくなかったので、さっぱりと言った。「いいえ、自分で取りに行きます」

中には着替えやスキンケア用品が入っていたので、新しく買うのはもったいなかった。

英庭は住所を教え、知惠は一人で車に乗って向かった。

知惠に付き添っていたボディーガードは、彼女がふらふらとタクシーを拾おうとするのを見て、まぶたをぴくりと動かし、すぐに車で近づき、彼女を英庭の住まいへと送った。

車が止まると、知惠は頭を下げて携帯を取り出し、運転手に尋ねた。「いくらですか？QRコードを読み取りますので」

ボディーガードは黙って携帯を取り出し、彼女にQRコードを読み取らせた。

「奥様、目的地はこの前の建物です」

「ああ……」

知惠は頷き、花束を抱えて車から降りた。

ドアを入るとすぐに、知惠は食べ物の香りを嗅いだ。

とても馴染みのある香り。知惠は思わず鼻を鳴らして匂いを嗅ぎ、中へと進んだ。

英庭はダイニングテーブルに座っており、テーブルの上には四品の料理とスープが置かれていた。彼女が嗅いだ香りはこれらの料理から漂ってきたものだった。

英庭は彼女が花束を抱えて入ってくるのを見て、尋ねた。「食事はした？」

「食べました。今日は同窓会に参加してきたんです」

知惠は花束を握りしめ、テーブルの上の料理を見た。「まごころ亭の料理ですね。さすが目の高いですね。もう食べてなかったら、もう一度食べたいところです」

「お椀と箸はキッチンにあるよ」

「へへへ、いいです」