棚木知惠は振り返って先輩の金田金に一言告げると、携帯を持って静かな場所へ電話を受けに行った。
「もしもし?聞こえますか?」
知惠の声が電話の向こうから聞こえてきた。
スピーカーにして電話を受けていた石丸英庭は実の母親を見た。
中村月冴は顔に笑みを浮かべ、「ちーちゃん、私よ!」
知惠は慌てて謝った。「お義母さん、すみません、今日は少し忙しくて、電話するのを忘れていました。」
「大丈夫よ、無事に京市に着いた?こんな遅くに、ご飯は食べた?」
知惠は素直に答えた。「今日の午前中に着きました。ちょうど仕事が終わったところで、これから食事に行くところです。」
「それは良かった。今日一日連絡がなかったから、英庭に電話して様子を聞いてもらおうと思ったの。無事で何よりだわ。」月冴は安心して、念を押した。「食事が終わったらすぐに学校に戻って休みなさいよ。外にあまり長く居ないで。」
知惠は心が温かくなり、「お義母さん、ご安心ください。すぐに食事を済ませて戻ります。」と答えた。
月冴は隣の息子をちらりと見て、「じゃあ、英庭と話してね。私はもう休むわ。」
知惠は承知した。
英庭がまだ口を開く間もないうちに、知惠の方から男性の声が聞こえてきた。
「後輩、君が注文した激辛エビが来たよ!早く来ないと全部なくなっちゃうよ!」
「ダメ!待って!今行くから!」
知惠は叫んだ後、すぐに英庭に言った。「お腹ペコペコなの、先に電話切るね、ごはん食べに行くから、じゃあね!」
長い通話終了音が鳴った。
英庭は「……」
自分がエビより重要でないことがはっきりわかった。
英庭が携帯を引っ込めると、実の母親の冗談めかした視線に出くわした。
「本当に知恵に謝ったの?」月冴は二杯の牛乳を温めてきた。
英庭は眉間を摘まんで、何も言わなかった。
「私から見れば、知恵は道理をわきまえた気前のいい良い子よ。あなたが進んで謝れば、彼女も許してくれるはず。どうして彼女はあなたと一言も話したくないの?」
「母さん、僕たちは喧嘩してないよ。」
月冴は「信じると思う?」という表情を浮かべた。
彼女は牛乳の一杯を英庭の手に置き、「私はあなたの母親よ、あなたが何を考えているか、わからないはずがないでしょう?」