第69章 後輩、怒らないで！

棚木知惠は指導教員をなんとかやり過ごしたものの、席に座っていてもどうしても落ち着かず、結局外へと歩き出した。

偶然なのか、彼女の斜め前に座っていた男子学生が木村思依のインタビューを見ていた。司会者が木村思依に尋ねていた。「ネット上での誹謗中傷について、あなたはどのように考えていますか？」

木村思依は強い笑顔を浮かべ、自嘲気味に答えた。「私も以前ネット上で誹謗中傷を受けたことがあります。その苦しみはよく分かっています。言葉は人を殺す武器になります。公人として、私は自分のファンや音楽仲間に、決して他人を誹謗中傷しないよう注意を促しています」

棚木知惠は会社を出て、考えれば考えるほど腹が立ってきた。

人は「一歩引けば広い海が見える」というが、彼女が一歩引くと、なぜ木村思依と最後まで戦わなかったのかと後悔するだけだった！

彼女はコーヒーを買いに行った。おそらく誰かが彼女を認識したのか、軽蔑の表情を浮かべ、彼女を指さして何か言っていた。

知惠は無表情でコーヒーを持って立ち去った。

木村若松たち三人が再び知惠が会社に戻ってくるのを見たとき、彼女の様子がどこか普段と違うと感じた。

彼女はパソコンの前に座り、キーボードをカタカタと打っていた。

若松が近づいて諭した。「後輩、焦らないで。必ず解決策はあるから、体を壊さないようにね」

安藤桜も諭した。「そうそう、後輩、他人の言葉で打ちのめされちゃダメよ！」

知惠は穏やかな笑顔を浮かべた。「いいえ、私は全然焦っていないし、怒ってもいません」

彼女は一気にコーヒーを飲み干し、コーヒーカップをカチカチと鳴らしながら握りしめ、目の奥に不気味な光を宿した。「私は全然怒っていませんよ」

若松は身震いし、おずおずと岸桐可を引っ張って、知惠を説得してもらおうとした。

桐可は考えることもなく自分の席に戻り、コードを書き始めた。

若松と桜は外に退き、こそこそと話し合った。

「後輩、これが怒ってないって？」

「絶対に怒ってる！」桜は確信を持って言った。「高校の時、数学コンテストの出場枠を横取りされた時も、彼女はこうやって笑いながら問題を解いていたわ！」