風の音が違った時点で、何かがおかしいと気づくべきだった。
いつものような優しい風ではなかった。窓をそっと揺らし、灯籠の灯をくすぐるような、心地よい囁きではなく――今夜の風は廊下を突き抜け、まるで中へ入り込もうとしているかのように唸っていた。塔の周りでうめき、雨戸をがたがたと揺らすその音は、まるで警告か、それとも哀悼の叫びのようだった。そしてその下に、煙の鋭い匂いが漂っていた。暖炉の香ばしい薪ではなく、もっと刺すような、苦く焦げた匂いだった。
私は裸足で、自室の冷たい石の床に立ち、遠くからかすかに聞こえる叫び声と泣き声に耳を澄ませていた。
最初は自分に言い聞かせた。ただの見張り交代だと。だが、すぐにそれは違うとわかった。足音がしたのだ――速い。大理石の床を叩く何十ものブーツの音が、廊下を駆け抜けていた。行進ではない。走っていた。金属がぶつかり合い、扉が乱暴に開け放たれ、遠くから怒号が響き、どこかで誰かが悲鳴を上げた――甲高く、壊れたような声が、あまりにも突然に途切れた。
その瞬間、恐怖が胸に突き刺さった。宮殿の廊下で何かが起きている。けれど、私は怖くて確認できなかった。
心臓が肋骨を打つのを感じながら、私は窓から後ずさった。その時だった。私の部屋の扉が勢いよく開かれたのは。
母が嵐のように飛び込んできた。解けた黒髪は乱れ、王家のヴェールは真ん中から裂け、両肩で傷ついた翼のように揺れていた。手袋もなく、普段は完璧に整えられているはずのその顔には、汗と滲んだコールが流れていた。私は一瞬、誰だかわからなかった。
「エイセン」と、息を切らしながら母は言った。「そのローブを脱ぎなさい。早く、今すぐ!」
私は固まった。「何が起きてるの?なぜ叫び声が?襲撃されてるの?」
「脱いで!」と、彼女はもう一度鋭く言い放ち、部屋を横切った。「今すぐ脱ぎなさい!」
震える手でローブの留め具を外し、頭からそれを脱ぎ捨てる私の横で、母は部屋の隅にある杉の箱へと駆け寄った。彼女の動きは鋭く、焦りに満ちていた――普段の優雅さとは程遠かった。彼女が木製の板の一つに手のひらを押し当てた時、私は目を見張った。隠し戸が、ぱかりと開いたのだ。この部屋に生まれてからずっと住んでいたのに、私はその存在すら知らなかった。
その中から母は、小さな黒い本を取り出した。私の手のひらほどの大きさしかなかったが、重かった。革の表紙はひび割れ、角は焦げ、ところどころ銀の糸で縫い直されていた。蝋燭の灯りにその糸がかすかに光っていた。奇妙な匂いが本に染みついていた――灰と乾いた血の混ざったような、鉄と古い時間の匂い。
「…それ、何?」と私は聞いた。自分の声が思ったより細かった。
母は答えなかった。ただそれを私の手に押しつけてきた。その本は冷たかった――石よりも。そして見た目以上に重く、まるで紙だけが中身ではないようだった。
「これを隠しなさい」と母は言った。「今夜何が起ころうとも、絶対に離してはだめ。誰にも触れさせてはいけない。」
「でも、これは何なの?魔法なの?」
「質問はいいの、エイセン」と彼女は言い、私の頬に手を当てた。「これは、生き延びるためのものよ。」
「父上は…どこに?」私は聞いた。答えが怖くて仕方なかった。
母は何も答えず、ただ私の顔をじっと見つめていた。まるで、最後に私の顔を記憶に焼きつけるかのように。
外の足音がさらに近づいた。兵士たちの怒声と金属音が混ざり、母の顎がきゅっと引き締まった。
「タペストリーの後ろに抜け道があるわ。あなたなら通れる。外側から封印してあるから、そう簡単には見つからない。」
「一緒に来て。母上も逃げよう」と、私は彼女の手首を掴んだ。「出口を一番知ってるのは母上だよ。」
「だめよ」と彼女は首を振った。その声は少しだけ柔らかくなった。「今、私が姿を消せば、あなたが逃げたとすぐにバレる。でも、ここで私が一人でいたら――何も持たずに――彼らはきっと、私が全てを差し出したと思うはず。」
離れたくなかった。でも彼女は身をかがめ、私の額にキスし、私の額に自分の額を当てながら、ささやいた。
「エイセン、自分の名を奪われるんじゃないよ。」
言葉を返す前に、彼女は私をタペストリーの裏へと押しやった。そこには埃をかぶった細い通路があった。杉の香りと、古い魔法、そして忘れ去られた涙のような湿った匂いが漂っていた。母は呪文をささやき、石の壁が背後で閉じた。私は完全な闇に包まれた。
膝を抱えてしゃがみ込み、胸に本を押し当てたまま、私は呼吸の音さえも大きく感じていた。外からは、部屋に兵士たちがなだれ込む音、家具が壊れる音、命令の声が聞こえていた。
その時――すべての音の中から、あの声が聞こえた。
リオル先生の声だった。
穏やかで、優しく、知っている声だった。助けてくれるかもしれない。私と母を安全な場所へ導いてくれるはずだ。
「ここにはいない」と、彼は言った。「次は通路を探せ。」
私は歯を食いしばり、涙が目ににじんだ。信じられなかった。彼が、裏切り者の一人だというのか?どちらがつらいのかもわからない――その言葉か、言い方の静かさか。
どれだけそこに隠れていたのか、正確にはわからない。ただ、脚が痺れるほど長く、恐怖の熱が鈍い疲労へと変わるほどには、時間が過ぎていた。
そして、ついに見つかった。
誰かがパネルをこじ開け、私の足首を掴んで引きずり出した。
私は抵抗しなかった。疲れ果て、呆然とし、若すぎる死と向き合う勇気すら残っていなかった。
手を縛られ、私は宮殿の瓦礫の中を連れ回された。崩れた柱、燃える布、無残に倒れた身体たち――見たくもない光景。血が壁に塗りつけられ、床にも匂いが充満していた。黄金の絨毯は泥にまみれていた。
外では、新たな地獄が待っていた。かつて笑い声の満ちていた中庭が、火の光と沈黙に包まれていた。
貴族と召使いが列をなして立ち、顔を伏せたりそらしたりしていた。高台には、私の家族の遺体が吊るされていた――兄弟姉妹、いとこたち、そして末の弟までも。彼らの目は閉じられたままで、いくつかはまだ血を流していた。足は糸の切れた人形のように石の上で揺れていた。
マルキオル王子がその前に立ち、父の王冠をかぶっていた。それはまるで、最初から彼のものだったかのように見えた。私を見ると、彼は穏やかに、満足げに微笑んだ――まるで、これがすべて計画通りだったとでも言うかのように。
「少年に見せろ」と、彼は言った。「忠誠に何が報いられるか、よく覚えさせてやれ。」
だから、まだ殺されないのか…私はただ、地獄の始まりを見つめるしかなかった。
上から悲鳴が上がり始めた時、私は叫ばないように唇を噛みしめた。
姉の悲痛な叫びが聞こえた。まだ「裏切り」という言葉すら知らぬ弟・ダエリンのすすり泣きも。
涙で目が焼ける。終わりはないのか?神はいないのか?なぜ助けてくれない?
そして私の番が来た。首に剣が振り下ろされる恐怖にも怯まず、私は目をそらさず、剣を構えるその者を見つめた。
それは私の師――私の教師であり、第二の父であり、裏切り者だった。
彼はマルキオル王子に向き直り、こう言った。
「この少年は私の教え子だった。掟がある。命は奪えん。」
「掟だと?お前はすでに全員を殺したじゃないか。こいつ一人残せば、害になるだけだ。俺がやる。」
王子が剣を掲げ、私に迫り、振り下ろしたその瞬間――私は目を閉じ、心臓が耳元で雷鳴のように鳴っていた。
しかし、刃は来なかった。
「王子よ、言ったはずだ。掟がある。この少年は別の方法で。」
「ちっ…面白くない奴だな、リオル。兵士たち!この少年を埋めろ!」
彼らは王家の大樹の根元に浅い墓を掘り、私を投げ込んだ。体が地面に叩きつけられ、息が詰まった。土が胸に、顔に降りかかる。もう埋められていた。
叫ぼうとした。懇願した。蹴り、息をし、叫んだ――でも、誰も来なかった。兵士も、神も、リオルすらも。
土が体を押しつぶし、腕を上げることもできない。口にも鼻にも詰まり、動けない。息もできない。世界は、土と心臓の鼓動だけになった。
そしてその時、思いがけない感覚が私を襲った――「飢え」だった。
ただの空腹ではない。もっと深く、病的で、どうしようもない飢え。朝の祝宴以来、何も口にしていなかった。胃はきしみ、喉は焼け、体中が何かを求めていた。
私はまだあの奇妙な本を胸に抱いていた。その一枚のページがふわりと浮いた。
最初は土が動いたのかと思った。だがそのページは、まるで私を誘うように宙を舞った。
私は考えることをやめた。ただそのページを破り、口に押し込んだ。この飢えを追い払うために。
味は埃と鉄、そして何か古びた苦味。過去そのものを噛み砕くような感覚。紙は舌の上で溶け、まるでずっと私を待っていたかのようだった。
そして、熱が来た。
外ではなく、内から。背骨から始まり、胸に、喉に、頭蓋へと広がる炎。思考は揺らぎ、息が止まり、心臓が止まり、そして――爆発するように脈打った。
闇が裂けた。
私は、もう地中にはいなかった。
泥と鋼の嵐の中にいた。雨が顔を叩き、鎧が肩に重くのしかかっていた。手には剣。血が刃から滴り、足元の水に混ざった。周囲で兵士が叫んでいた――味方も敵も。そして、稲妻が空を引き裂いた。
首には赤いスカーフ。雨と煙、そして古い悲しみの匂い。私は戦っていた――いや、彼が戦っていた。この記憶の持ち主が。私は彼の怒りを、悲しみを、そして名もなき愛を感じていた。
そして、彼を見た。
倒れた少年――エルダレスの紋章を身に纏った王族の子を、彼は最後の力で守っていた。
彼は本来、敵だった。だが、その最期の瞬間、彼は私たちを選んだ。
彼の名前は知らなかった。
けれど、その心は――知っていた。
その鼓動が私の胸に響く。背中に刃が刺さり、戦場が傾いていく。彼と共に倒れ、息も絶え、砕けながらも、言葉にならない何かで満たされていた。
記憶が終わった時――闇が、再び私を包んでいた。