花果山、急流が崖を轟音とともに流れ落ち、水しぶきを上げていた。
滝の源流には急峻な崖があり、その岩の上に一本の凛々しい松の木が立っていた。
松の木の下で、猿の群れが首を伸ばして滝を見つめていた。
「滝の中に入って源流を見つけられる猿がいたら、その猿を王様にしよう」
猿たちはそう約束したものの、誰も滝に飛び込む勇気がなかった。
「おい」
一匹の雌猿が顔を上げ、松の木に向かって叫んだ。「お前、飛び込めるって言ってたじゃないか?」
「もちろん飛び込めるさ!」
木の上には一匹の石猴が座っていた。
石猴は木の幹で両足をぶらぶらさせながら、頬を膨らませて言った。「スイカを食べ終わってからな」
彼はスイカを抱えて、口を左から右へと'なめ'まわし、顔中に新鮮な果汁を浴びせかけ、あっという間にスイカの種を機関銃のように吐き出した。
瞬く間に、石猴の手には皮だけが残った。
石猴は皮を脇に投げ捨て、松の木から飛び降りた。
「俺の技を見ろ!」
石猴が崖端に歩み寄ると、突然奇妙な風が吹き、波しぶきが岩に打ち付けられ、石猴を濡らした。
他の猿たちは恐れおののいた。
石猴は天も地も恐れを知らず、方向を定めて身を屈め、突然跳躍すると、まるでバネのように崖から飛び出し、滝の中に消えていった。
猿の群れは驚きの声を上げ、心臓の弱い年老いた猿たちは足がすくんでしまった。
「あいつ本当に飛び込んだぞ!」
「きっと死んでしまったに違いない!」
石猴は滝の中に飛び込むと、そこには不思議な洞窟があり、鉄板橋が奥へと続いていた。
彼は体の水滴を振り払い、よく見ると、鉄板橋の下の水流が崖壁に打ち付けられ、逆さまに流れ出て、洞口を覆って滝となっていたのだった。
石猴は橋を渡り、不思議な洞窟は次第に大きくなっていき、数分後、石猴の目の前が突然明るくなり、巨大な石窟が現れた。
石窟のあちこちから仙光が輝き、天然の石の椅子や寝台が多くあり、石猴は目を見張り、大いに驚いた。
ここの空気は春のように心地よく、岩壁には緑の竹や梅の花が生え、さらには何本かの凛々しい松の木まであった。
石猴は洞口で石碑を見つけ、そこには二行の文字が刻まれていた。
「花果山福地、水簾洞洞天」
「水簾洞」
石猴は大喜びした。
彼は急いで知らせに戻ろうとしたが、数歩も進まないうちに、突然足が何かに引っかかり、石猴はバランスを崩して激しく地面に倒れた。
「何が俺の足を引っかけたんだ!」
石猴は頭を押さえながら立ち上がった。
地面を見ると、四角い石があった。
「無字の天書、四万万九千年後の事を知ることができる」
石の上には奇妙な文字が刻まれていた。
「道の真ん中に邪魔をするな」
石猴は石を拾い上げて力いっぱい投げつけたが、思いがけず石が跳ね返り、電光石火の速さで彼の頭を直撃した。
石猴は「あいたっ」と叫んで気を失った。
どれくらい時間が経ったのか分からないが、石猴がぼんやりと目を覚まし、再び周りを見回したとき、あの石はもう見つからなかった。
「あいつはどこに行ったんだ?」
石猴は首を傾げながら、後頭部を撫でて水簾洞を出た。
滝の外では、猿の群れが石猴の遺体を探していた。
「だめだ、何も見つからない。きっと深い淵に落ちてしまったんだ!」
「遺体は既に海まで流されてしまったかもしれない!」
「花を摘んできて供えようか?」
猿たちが石猴の葬儀の相談をしていると、突然、見慣れた姿が滝から飛び出してきた。
「お化けだ!」
猿の群れは驚いて四方八方に逃げ出した。
「逃げるな、逃げるな!」
石猴は大声で叫んだ。「滝の中には山の洞窟があるんだ」
彼は驚いている猿たちに水簾洞の様子を詳しく説明した。猿たちは話を聞き終わると、一匹一匹が耳を掻きながら「本当にそんな素晴らしい場所があるのか?早く中に入って、私たちに見せてくれ!」
石猴は躊躇することなく、再び滝に飛び込んだ。
勇気のある猿たちはすぐに彼の後を追って飛び込み、臆病な猿たちも、首を伸ばしたり引っ込めたりしばらく迷った後、全員が飛び込んだ。
猿たちは水簾洞に入ると、あちこちで器を奪い合い、座席や寝台を争い、あっちこっちに移動し、遊び疲れてようやく落ち着いた。
石猴は高座に座った。
「みんな、中に入れた猿を王様にすると言っただろう。俺はそれを成し遂げた。なぜ俺を王様として拝まないんだ?」
猿の群れはこれを聞いて、誰も反対する者はいなかった。
彼らは一列に並んで、石猴に跪いて王様として拝した。
「大王様」
拝礼の後、一匹の年老いた猿が進み出て媚を売った。「王様となられた以上、石猴という呼び方はもう相応しくありません。別の呼び名に変えてはいかがでしょうか」
「別の呼び名?」
石猴は少し嬉しそうだった。「どんな呼び名にする?」
老猿は石猴を上から下まで眺めた。石猴と呼ばれてはいるが、彼の体には石らしいところは一つもなく、全身が金色に輝き、眉目秀麗で実に美しかった。
「大王様は風格がございます。美猿王はいかがでしょうか?」
老猿が言った。
他の猿たちもこれを聞いて、喜んで跳ね上がった。
「美猿王様、素晴らしい!美猿王様、素晴らしい!」
石猴は何度か繰り返して言ってみて、この呼び名が気に入った。
「よし、これからは美猿王と呼ばれることにしよう!」
猿たちは王を得て、すぐに山から百花や果物を集めてきて、宴を開いて美猿王を祝った。
猿王は楽しく飲み、やがて酔いつぶれた。
もうろうとした夢の中で、彼は再びあの石を見た。
「よし、お前がどこに行ったのか分かったぞ。俺の頭の中に隠れていたんだな」
石猴は石を掴もうとしたが、石はもう石ではなく、本物の本になっていた。
その本を見た瞬間、石猴は天啓を得たかのように、表紙の文字を一目で理解できた。
『世界通史:先史時代から21世紀まで』
「おかしいな!」
石猴は頭を掻きながら、本を開いて読み始めた。
読み始めると、もう止められなくなった。
無字の天書は、一定の間隔で四万万九千年後の本に変化し、石猴の夢の中に現れるのだった。
石猴の人生観はこれらの本によって完全に変わってしまった!
文明が栄える未来の世界が彼の目の前に広がり、石猴は飢えた者のように、本の知識を貪るように吸収した。
しかし知識が増えるにつれて、石猴の心の中の疑問も大きくなっていった。なぜ四万万九千年後には神仙も妖怪もおらず、人間族だけなのか。
一年後、石猴は数十冊の天書を読み終えた。
彼は我慢できなくなり、天書の知識を使って大きなことをしようと決心した。
まさに石猴が何か大きなことを計画しようとしているとき、天書の姿が再び変化した。
「今度はどんな本だ?」
夢の中の石猴が本を開いてみると、顔がにやりと笑みを浮かべた。
「こいつも俺と同じように石から生まれたんだ!」
さらに不思議なことに、この『西遊記』の主人公も花果山で猿王になり、呼び名まで同じだった。
石猴は本の物語に引き込まれた。
彼は急いでページをめくり、面白いところに来ると思わず手足を動かして喜んだ。「すごい、天宮大騒ぎだ!」
このやつは本当にすごい、天宮大騒ぎとは、まさに我が輩の手本だ!
しかし読めば読むほど、この本に出てくる猿が自分に似ているように思えてきた。
まさか、俺がこんなにかっこいいはずがない!
石猴は心の中で嬉しく思いながら、しかしその後の物語は、彼を喜ばせるものではなかった。
「情けない、情けない!」
石猴は目を見開き、その目から怒りの光が放たれた。
この本に書かれている美猿王は、まさか本当に自分のことではないだろうか?
冗談じゃない、もし自分だとしたら、僧侶にならなければならないのか?
「僧侶になんかなりたくない」
石猴は大いに怒った。如来様という奴は本当に陰険だ!
猿さえも見逃さないとは!