第93章:こんなにみすぼらしい

金翅大鵬鳥は羽を一振りするだけで九万里を飛べる。

瞬く間に、彼は香袋を持って高い山に飛び込み、洞窟へと入った。

「下郎ども、早く酒と料理を用意せよ。美人と楽しむのだ!」

金翅大鵬鳥は哄笑いながら妖狐様を玉座に座らせた。

あまりにも速く飛びすぎたせいか、妖狐様は目を閉じたまま動かず、気を失ったようだった。

「なんと魅力的な方だ」

金翅大鵬鳥は彼女の美しさに魅了され、思わず妖狐様の額にキスをした。

「ん?」

彼は突然、何か違和感を覚えた。

「なぜ口が刺さるような?」

金翅大鵬鳥は口に触れ、数本の狐の毛を見つけた。

「大、大王様...」

洞窟の中の様々な小妖たち―鵬妖、獅子妖、狼妖―は目を丸くして金翅大鵬鳥を見つめていた。

「なぜぬいぐるみをお連れになったのですか?」

彼らは尋ねた。

「何だと!」

金翅大鵬鳥の目に星が光り、幻術から目覚めた。

妖狐様を見ると、確かにぬいぐるみだった。

金翅大鵬鳥の顔は青くなったり白くなったりし、怒りで体が震えた。

堂々たる雲鵬萬里である自分が、毛の塊にキスをするとは。幸い早く気付いて良かった、さもなければ...

「何たる無礼か、あの狐妖め、私を愚弄するとは!」

金翅大鵬鳥は方天戟を手に取り、「花果山へ行って捕まえてくる」

「大王様」

小妖たちは驚いて言った。「花果山には散仙が多く、霊網もあります。どうかお気をつけください!」

「そんな散仙どもが私に手を出せるとでも?」

金翅大鵬鳥は冷たく言った。「あの狐妖が私を愚弄したのだ、許すわけにはいかん!」

もし仕返しをしなければ、天下の妖怪に笑い者にされてしまう。

「酒と料理の準備は続けておけ。すぐに戻る」

金翅大鵬鳥は命じると、大股で洞窟を出て行った。

一方、妖狐様と嫦娥仙子様は東海大洋に辿り着いたところで、前方に金光が一筋現れ、瞬時に目の前に姿を現した。

それは怒りの表情を浮かべた孫悟空だった。

「大王様」

自分の過ちを知る妖狐様は首を縮め、小さな声で謝罪した。

「説明は不要だ。すべて承知している」

孫悟空は冷たく言い、両手で妖狐様と嫦娥仙子様を掴んだ。

「しっかりつかまれ」

そう言うと、彼は金光となって萬壽山へと降り立った。

嫦娥仙子様は天地が一回転したかのような感覚を覚え、瞬く間に花果山に戻っていた。

「なんと凄まじい神通力!」

嫦娥仙子様は心中大いに驚いた。仙人の中でも、これほどの恐ろしい速さは見たことがなかった。

「大仙様」

孫悟空は鎮元大仙を呼んだ。

鎮元大仙は出てきて、指で占いをし、言った。「見ろ、彼女が災いを引き起こすと言っただろう」

「心配には及ばぬ」

孫悟空は言った。「妲己を二日間泊めてくれ。その災いは、私が解決する」

鎮元大仙は首を振った。言うは易く、あの金翅大鵬鳥が来たら、もめ事にならないとも限らない。

「本当に彼女を守るつもりか?」

鎮元大仙は尋ねた。

孫悟空は頷いた。

「ならば仕方がない」

鎮元大仙は妖狐様を睨みつけた。「この二日間はここにいろ。どこにも行くな。出かければ、神仙でも救えんぞ」

妖狐様は小声で承諾した。どんなに鈍くても、今では自分が恐ろしい妖怪を怒らせてしまったことを理解していた。

「私もここに二日間滞在します」

嫦娥仙子様が続けて言った。

妖狐様は少し意外そうに彼女を見た。

「誤解しないで」

嫦娥仙子様は冷たく言った。「この事は私が原因で起きたこと。放っておくわけにはいきません」

もし彼女が妖狐様を傲来国に誘わなければ、おそらく金翅大鵬鳥と出会うこともなかっただろう。

「行かねばならん」

孫悟空は突然心が動き、身を躍らせ、金光となって消えた。

妲己は心配そうに見送った。「大王様は大丈夫でしょうか?」

「大丈夫よ」

嫦娥仙子様は答えた。心の中では、あの金翅大鵬鳥は神通力が広大で、天宮でさえ慎重に対応しなければならないのに、孫悟空は幻術一つで欺くことができたと考えていた。

確かに巧みな手段ではあったが、彼の神通力が金翅大鵬鳥に劣らないことは明らかだった。

「中へ入りましょう」

鎮元大仙は二人を連れて五庄観へと入った。

一方、孫悟空は東海大洋に到着し、もう一つの金光を遮った。

「何者だ、我が行く手を遮るとは!」

金翅大鵬鳥は大声で問うた。

「やはり彼か...」

孫悟空は心の中で思った。

早くから彼は、あの者が災いを引き起こすことを知っていた。

しかし孫悟空が予想もしなかったのは、彼女が一度外出しただけで、この者と出会ってしまうことだった。

「お前は孫悟空だな」

金翅大鵬鳥は孫悟空の金色の姿を見て、その正体を見抜いた。「ちょうど良い、お前は花果山の大王だ。早くあの妖狐を引き渡せ」

「できぬ」

孫悟空は拒否した。

「私の身分を知っているのか?」

金翅大鵬鳥は大笑いした。「私の一通の書状が霊山に届けば、五百阿羅院が迎えに来る。一枚の書簡が天宮に届けば、十一大曜真君様が皆敬服する...」

彼は自分の人脈を自慢し、言い終わると尋ねた。「私を怒らせて、お前一介の小仙人に務まるのか?」

金翅大鵬鳥は高慢で、如来様さえも恐れぬ者が、どうして孫悟空を目に入れようか。

孫悟空は微笑んだ。「務まるかどうかは、戦ってみなければわからぬ」

「なかなかの度胸だ」

金翅大鵬鳥は方天戟を収めた。「お前は武器を持っていない。私も使わぬ。他人に大を以て小を欺くと言われぬようにな」

二人は身を翻し、空中で激しい戦いを始めた。

一方は混沌の初めより修行し、北を振るい南を制し、剛強勇敢。もう一方は太古より孕まれし天産の靈猿、変化無窮にして混元の仙體。

二人とも世に二つとない存在で、天上から海中まで戦い、また海中から天上まで戦った。拳は漫天の雲霞を巻き起こし、足は海浪を天に蹴り上げ、百里の内、魚も蟹も逃げ惑い、天地は色を変えた。

この一戦の威勢は凄まじく、傲来国にも狂風を巻き起こし、山林は木々が折れ、海浪は咆哮し、龍子は海辺に結界を張って、かろうじてこれを防いだ。

二人は一日一夜戦い続けたが、勝負はつかなかった。

巨靈神様が天から飛び降りてきた。

「お二方、お手を止めください!」

彼は二人の鋭気を避けながら、遠くから叫んだ。「猿王、このまま戦い続ければ、傲来国が水没してしまいます!」

孫悟空はそれを聞くと、すぐに手を引いた。

彼は早くから金翅大鵬鳥の実力の高さを知っていたが、これほどとは思わなかった。大海での戦いが、百里も離れた傲来国にまで影響を及ぼすとは。

金翅大鵬鳥は孫悟空が手を引くのを見て、十里先まで退いた。

「この金毛の猿め、実力が極めて高い。罠に注意せねば」

金翅大鵬鳥は軽視の心を捨てた。

先ほどの戦いは一見互角に見えたが、実は孫悟空がわずかに優勢だった。金翅大鵬鳥は戦場を花果山に移そうとして孫悟空の動きを制限しようとしたが、逆に数里も押し返されてしまった。

「猿王」

巨靈神様は言った。「玉皇大帝様がおっしゃるには、たかが妖狐一匹、引き渡せばよいものを、なぜ戦いを起こすのかと」

孫悟空は冷笑した。

「できぬ」

彼は拒否した。

巨靈神様の表情は一気に険しくなった。

金翅大鵬鳥も大いに怒った。

「この悪猿め、分別がないな!」

彼は手を振ると、方天戟が現れた。

孫悟空も口から小さな葉を取り出した。

金翅大鵬鳥は大笑いした。「お前の武器はなんと哀れなものか。見せるのを恥じるのも当然だ!」

孫悟空は風に向かって一振りすると、芭蕉扇は本来の姿に戻った。

「今日はここまでだ。明日また戦おう」

彼が芭蕉扇を一振りすると、大笑いしていた金翅大鵬鳥は忽ち姿を消した。

巨靈神様はこの光景を見て、顎が外れそうになった。

孫悟空はもはや気にも留めず、身を翻して萬壽山へと戻っていった。