「長老、どうでしたか?」
黒い肌の漢の方が直ぐに近寄り、親しげに尋ねた。
金池長老は流砂河で起きた出来事を全て話し、話せば話すほど腹が立ってきた。
黒い肌の漢の方と他の二人の道人様は眉をひそめ、これは厄介だと感じた。
「まさか、たかが貶められた神仙が、こんなにも傲慢で、佛門を拒むとは」
黒い肌の漢の方は複雑な眼差しを向けた。彼こそが黒熊精だった。
実は観音様が彼に目をかけていただけでなく、彼も観音様に惹かれていた。まさに相思相愛だった。
そのため。
黒熊精は觀音禪院の金池長老と兄弟の契りを結び、観音様の門下に入る機会を窺っていたのだ。
金池長老が観音様のお告げを受け、流砂河の沙塵を降伏させれば大功を立てられると聞いた。
喜びに胸を躍らせていたが、手の内にあると思っていた功績が、こんなにも難しいとは思わなかった。
たかが一人の罪將が、これほどまでに頑なとは。
「成仏して高みに上り詰めるのに、なぜ流砂河で苦しみ続けることを選ぶのか?」
黒熊精は首を振りながら嘆息した。「本当に理解できない。あの罪將は何を考えているのか」
金池長老も言った。「そうですね、私にも分かりません」
「熊兄さんは強大な実力をお持ちで、既に金仙上級。彼を誘い出して、力ずくで捕らえてはいかがでしょう?」
「ここに連れてきて、日夜仏法の薫陶を受けさせれば、きっと従うはずです」
黒熊精は言った。「それで菩薩様のお怒りを買わないだろうか?」
金池長老は言った。「菩薩様はお告げの中で、どんな方法でも構わないとおっしゃいました」
黒熊精と他の二人、凌虛子と白花蛇道人は目を合わせ、互いの目に喜色が浮かんでいるのを見た。
どんな方法でも良いなら、任務を完遂すれば大功を立てられる。
黒熊精は即座に言った。「よし、そうしよう。長老は觀音禪院で良い知らせをお待ちください」
金池長老は焦って言った。「私も同行させてください。彼は私を知っています。私が行けば、怒りを買って出てくるはずです」
しかし黒熊精は笑って言った。「長老はもう十分にご苦労されました。捕らえて連れ帰った後、長老に経を唱えていただかねばなりませんから」
そう言うと、凌虛子と白花蛇道士の三人は息を吐いて雲となし、雲に乗って去っていった。
觀音禪院に残された金池長老は怒りで足を踏み鳴らした。
彼らが遠ざかってから、やっと罵った。「この畜生め、功績を独り占めにしようというのか。これは観音菩薩様が私にお告げ下さったことなのに、功績を横取りする気か」
一方その頃。
沙塵は金池長老が去った後、八卦仙衣を手に入れ、簡単に試してみると、確かに姿を消すことができた。
さらに気配も隠すことができ、特別な神眼の位と強力な神念がなければ、発見は難しいだろう。
彼の火眼金睛の術でさえ見つけるのが困難なほどで、火眼金睛の術のレベルがまだ低いことを嘆かざるを得なかった。
しかし金池長老を追い払った後、沙塵は修練に戻ろうと考えた。
分身レベルの問題を解決したいと思っていたが、今のところ良い方法がなく、運を天に任せるしかなかった。
どうせ多くの分身を連れ出したのだから、一つ死んでも、また一つ育てればいい。
面倒ではあるが、安全だ。
廣陵大王への復讐は、後日に回すことにした。
しかし。
修練に入ろうとしても、そう簡単にはいかなかった。
風水座蒲団の上で入定しようとした時、また河面から呼びかける声が聞こえてきた。
「巻簾将軍様、私たちは誠心誠意、仏会にご招待に参りました。これは千載一遇の機会です。参加されれば、菩薩様にお会いできるかもしれません。菩薩様に天庭へ執り成しを頼み、あなたを自由にしていただけるかもしれません」
沙塵は眉をひそめ、再び虚影を凝らせ、流砂河の上に投影した。
すると、今度は三人が来ているのが見えた。
中央に若い金池長老、左に黒い肌の漢の方、右に一人の道人様がいた。
沙塵の火眼金睛の術が自動的に発動し、すぐに中央の'金池長老'が偽物で、白花大蛇の変化した姿だと見破った。
彼は冷笑した。「まさか金池長老がこれほどまでに私を佛門に入れたがっているとは。自分が失敗した後で、この三人を呼んできたとは」
沙塵は言った。「既に申し上げましたが、私は修練に専念したいのです。どうか邪魔をしないでください。早々にお引き取りください」
'金池長老'は笑って言った。「施主、これはあなたのためを思ってのことです。私にあなたの道場で仏法を説かせていただき、互いの理解を深めましょう」
そう言って数歩近づき、河面に出て、沙塵の投影に近寄ろうとした。
沙塵は冷笑を浮かべた。既に彼らの意図を見抜いていた。
説得が通じなければ、力づくでやろうというわけだ。
これこそ妖界のやり方だ。
沙塵は冷笑し、次の瞬間、'金池長老'は一匹の白花大蛇と化し、飛びかかってきて、血相を変えた大きな口を開け、彼に噛みつこうとした。
しかし空を切っただけで、噛んだのは虚影に過ぎなかった。
簡単に空振りし、白花大蛇は一瞬戸惑った。流砂河の下に黒い影を見つけると、直ちにそこへ潜り込んだ。
凌虛子と黒熊精は目を合わせ、互いの目に悔しさが浮かんでいるのを見た。
まさか、こんなに簡単に逃げられるとは。
しかし。
白花大蛇は水性に長けているから、流砂河に入れば、奴を引きずり出せるはずだ。
流砂河の下で。
追いかけてきた白花大蛇は、流砂河の水質が体に合わず、全身が不快になるのを感じた。
急いで避水の術を使い、陣法の前に来ると、数回試してから、狂ったように攻撃を始めた。
「毛神様、お前に胆があるなら出てきて道爷と三百回戦え。陣法の中に隠れて亀のように縮こまっているとは何事か」
「出てこい、早く出てこい。なぜお前は菩薩様の寵愛を受け、仏会に招かれているのに行かないのだ。道爷は招かれもしないというのに」
轟轟轟。
白花大蛇は狂ったように陣法を攻撃し、咆哮した。
その時。
陣法の中の沙塵は平然と外で攻撃する白花大蛇を見つめ、動じる様子もなかった。
「宿主が黑風洞の黑熊精三大妖に狙われていることを発見。以下の選択肢があります」
「選択肢一:干戈を玉帛に変え、三大妖王様に謝罪し、説明した上で仏会に参加する。報酬は法寶【金箍】。金箍:如来仏祖の法寶で、頭に着けると、呪文を唱えることで締め付けることができ、頭痛に苦しめることができる。大きさは自在に変えられる」
「選択肢二:決して頭を下げず、仏会に参加せず、三大妖王と最後まで戦う。報酬は眼眸【破妄法眼】。破妄法眼:最高級の神眼の一つで、虚妄を見破り、全ての虚構を見抜くことができ、一定の攻撃能力を持つ」
沙塵は一瞬驚いた後、すぐに狂喜した。
ちょうど火眼金睛の術では流砂河の水面さえ見通すのが難しいことに悩んでいた時に、破妄法眼が現れた。
躊躇なく第二の選択肢を選び、仏会に参加しないことにした。
しかしそれだけでは不十分で、後には三大妖王と最後まで戦うという要求がある。
彼は眉をひそめ、目に殺意が閃いた。
「ちょうど金仙巔峰に達してから、戦っていなかった。彼らが挑んでくるなら、容赦はしない」
「本来なら観音様が黒熊精を護山大神として迎えることになるはずだが、それはまだ数百年先のこと。観音様が既に彼に目をかけているとは限らない」
「それに、黒熊精は今はただの妖怪に過ぎない。討ち取っても民のために害を除くことになり、観音様に対して失礼にはならないだろう」
沙塵の目は寒気を帯びていた。
しかし戦うにしても、流砂河を離れるわけにはいかない。外には虎視眈々と狙う者がどれほどいるか分からないのだから!