北原秀次が冬美に両目を怒りの目で見つめられた時、小野陽子は4階の廊下に立って通りを観察していた。通行人がほとんどいないことを確認すると、北原アパートの予備の鍵を持って、慎重にドアを閉め、百次郎を連れて階下へと急いだ。
彼女は消毒剤を買いに行くところだった。
彼女は北原秀次というニセモノとは違い、愛知県名古屋市の生粋の住民で、幼い頃からカビ菌の対処法を知っていた。北原秀次のようにブラシで見つけ次第こすりつけるだけでは駄目で、それは無駄な努力だ。根本から絶やさなければならない!
その根源は天井にあった。天井のカビは一見それほど目立たないように見えたが、それこそが本当の禍根だった。天井のカビを一度にきれいに除去しなければ、床を何度こすっても無意味で、せいぜい三、四日きれいなままだろう。天井のカビがまた舞い落ちて地面で増殖し始めるのだ。
だから最善の方法は消毒剤で天井の隅々まで拭き取ることだ。床の方はゆっくり掃除して、見つけ次第除去していけば、最後には完全にきれいになる。
家の中を注意深く観察した彼女は、北原秀次が天井に全く手をつけていないことを確認し、驚きながらも少し嬉しくなった。今回は北原秀次の大きな助けになれると確信し、貯めていた小銭を数えて意気揚々と出かけた。北原秀次がアルバイトから帰ってきて、心配の種が消えた後の安堵の笑顔を見るのが楽しみだった。
きっと褒めてくれるはず。考えただけでうきうきした!
彼女は小走りでコンビニに向かい、トイレ用消毒剤を一本買って嬉しそうに家に向かって走った。これだけあれば十分だ。彼女は独り暮らしの経験も豊富で、棒と雑巾があれば天井を拭けると知っていた。
彼女はプラスチックボトルを抱えて道端の水路に沿って走り、時々周囲を警戒して見回した。百次郎は忠実に、彼女の足元にぴったりとついて護衛していた。しかし路地を曲がったところで、野球のバットやグローブを持った十数歳の男子学生たちが向かってくるのに出くわした。彼らは騒がしく、風が強くなってきたため小さな公園で野球ができなくなり、別の遊び場を探しているようだった。