第163話 野球チームの新しいコーチ_3

他のピッチャーには何も言わなかったが、打者陣を見て、にこやかに言った。「マシンのストレートでさえ、あなたたちの命中率は惨めなほど低いわね……私が聞きたいのは、普段トレーニングをしているのかしら？あなたたちの体型を見ると、上半身の筋力トレーニングなんて一度もしていないでしょう？これは試合に出るための準備であって、'快楽野球'という名のゲームじゃないのよ！」

彼女はチームメンバーの前を歩きながら、笑顔で続けた。「毎年5000チームが参加して、選手は10万人以上、観客は4500万人……あなたたちはこれを遊びだと思っているの？普段適当に練習すれば結果が出ると？他のチームが犬のように走り込んでいる時、あなたたちは快楽野球。他のチームが筋力トレーニングをしている時も、あなたたちは快楽野球。他のチームが守備の戦略を何度も練習している時も、あなたたちはまだ快楽野球！夏の大会で一点も取れずに、恥ずかしい初戦敗退、それでもすごく楽しかったの？全員二軍で、一軍に上がれる実力がつくまでそこにいなさい！」

「あなたたちがどう考えているかは知らないけど、私は甲子園に行きたいの、絶対に行くわ！今からこのトレーニング計画に従って、体力作りから始めましょう。耐えられない人は いつでも辞めて結構よ。私は最も優秀で才能があり、苦労を厭わない人だけが必要なの。もちろん、私も非情な人間じゃないわ。野球は好きだけど試合には興味がない人は、別に'快楽野球部'みたいなものを作ればいい。学校は予算をつけてくれるはずよ。そこで大浦たちと好きなだけ快楽野球を楽しめばいい——今日大浦が抗議しなくても、私は彼を解任するつもりだったわ。彼はチームを率いる責任を全く果たしていない。試合に負けた後、夏休み中ずっと何もせず、みんなと遊んでばかりいたんだから！」

「彼はチームが勝つことなんて考えてもいなかった。そんな人は部長を務める資格なんてないわ！学校には一つの出場枠しかないの。勝つ気のない人は席を譲って、勝ちたい人、勝てる人に任せなさい！さあ、もう長話はやめましょう。どうせ1、2週間もすれば、残る人なんてほとんどいなくなるでしょうから！始めましょう、吐くまで走りなさい！」鈴木希は言い終わると、適当に臨時のリーダーを指名し、男子学生たちがグラウンドを周回し始めるのを見守った。スーツの女性が彼女に折りたたみ椅子を持ってきて、彼女は日陰に座り、内田雄馬に手を振って、「内田、こっちに来て」と笑顔で呼んだ。

内田雄馬は一瞬戸惑ったが、すぐに小走りで近づき、へりくだって笑いながら「鈴木さん、あ、いえ、コーチ、何かご用でしょうか？」と言った。

まさに時勢を知る者は賢者というもので、内田雄馬はいつも賢者だった。

鈴木希は笑みを浮かべながらも、彼を座らせることなく、自分の前に立たせたまま、優しく言った。「今日は大変だったわね、内田。一日中私のことを探り回って。」

内田雄馬は驚いた様子で、鈴木希は更に尋ねた。「北原君に頼まれたの？」

「あ、それは...違います。以前からコーチのことを尊敬していて、やっと学校に来られたと聞いて、とても興奮して、つい余計なことを聞いてしまいました。どうか気にしないでください！」

どのくそやろうが俺のことを密告したんだ？この女はどうやって俺が彼女のことを探っていたのを知ったんだ？

鈴木希は少し感心したような目で彼を見て、優しく言った。「そうだと信じることにするわ。確かにあなたは口が軽すぎて、一日で200人以上に聞いて回ったけど、私は忠実な人が好きよ。あなたはいい人だから、今回は追及しないわ...私に敬語を使う必要はないわ。私たちは同級生なんだから、友達として接しましょう！」

内田雄馬は正義感あふれる様子で「それは駄目です！コーチはコーチです。タメ口なんて使えません。敬語を使わせてください！」

鈴木希は愛らしく笑って「ますます気に入ったわ、内田！」

内田雄馬は鈴木希の笑顔に呆然とした。普段は女性の噂話をよくするくせに、目の前の女性には妙に臆病になる彼だったが、鈴木希は確かに極めて美しかった。突然の寵愛に戸惑いを感じ、手のひらまで汗ばんで、しばらく言葉が出なかった。鈴木希は笑いながら続けて尋ねた。「内田、このままのチームの状態で、来年の夏に勝てると思う？」

内田雄馬は即座に理解し、すぐに忠誠を誓った。「もちろん勝てるわけありません。私はコーチのすべての決定を1万パーセント支持します！トレーニング強度を上げて、来年は必ず甲子園に行きましょう！」

「本当？私のすべての決定を支持してくれる？」

「はい、本当です！」

「それは良かったわ。そんな決意を持っているなんて素晴らしいわ。じゃあ、北原君を騙して連れてきてちょうだい！私たちには普通のボールスピードの、少なくとも路地裏の遊び程度じゃないピッチャーが必要なの。この任務をあなたに任せるわ！」

内田雄馬はまた呆然として、しばらくして泣き顔になって「コーチ、私は極めて正直な人間で、人を騙したりできません！」

北原秀次を騙そうものなら、北原秀次本人が怖いというより、式島律が先に彼を殺すだろう。

鈴木希は何度もうなずいて、「確かにこれはあなたを困らせることになるわね、内田。でも私は本当にあなたに期待しているの。あなたは私の計画では正捕手よ。私はあなたには大きな可能性があると思っているわ。冷静な頭脳を持ち、状況を素早く判断できる。腕力もいいし、正確な長距離送球もできる。特に相手の観察が得意で、相手の体型とポジションに応じてピッチャーに指示を出すのが上手...完璧と言っていいほどの実力よ...だから、あなたにはエースピッチャーとの組み合わせにふさわしいわ。」

内田雄馬は信じられない様子で、驚いて「こ、こ、これは...本当ですか？私にそんな才能が？」と興奮した様子で、これらの言葉が心に響いた。

もしかして俺、雄馬様がついに伯楽に出会えたのか？

鈴木希は優雅に笑って「もちろん嘘よ。人を騙すのはそんなに難しくないってことを教えただけ。だから、北原君を騙して連れてきて。あなたは彼と仲が良いでしょう、何か方法があるはずよ。」

内田雄馬は言葉もなく鈴木希を見つめたが、怒る勇気もなく、苦笑いして「あの...北原は野球なんてまったくできませんよ。ルールすらよく知らないのに、騙して連れてきて何になります？」

彼は眉を動かしながら、こっそり鈴木希を見た——この子も北原のあの顔に惚れたのか？ありえる！

急いでもう一言付け加えた。「彼には彼女もいるんですよ。H班の福泽雪里です。天才剣道少女で、スタイル抜群、満点レベル、さらにすごく可愛くて、少なくとも99点はつけられます。北原とも相思相愛で、今は毎日お昼に一緒に弁当を食べていて、たぶん高校卒業したら結婚するでしょう。」

鈴木希は内田雄馬が誤解していることを知っていたが、気にせず笑って言った。「私は彼に才能があると思うの。だから来てほしいの。ルールなんかは彼にとって難しくないはず。一度説明すれば覚えられるでしょう...でも、福泽雪里のことをもう少し詳しく教えて。北原君は彼女のことを大切に思っているの？」

内田雄馬は北原秀次についてあまり多くを話したくなかったので、もごもごと「それは...まあ、大切にしているんじゃないですか？どう言っても彼女なんだから、大事にするでしょう！」

鈴木希はわかったとうなずいて、笑って言った。「いいわ、トレーニングに行きなさい。私が頼んだこと忘れないでね。早く北原君を騙して連れてきて。」

内田雄馬は泣きそうな顔で反対する勇気もなく、後で北原秀次と相談して、北原秀次に助言を求めようと思い、すぐに走る列に加わった。一方、鈴木希は独り言を言った。「福泽雪里...本当に彼の彼女なのかしら？それなら重点的に注目する必要があるわね。」