周文はスマホを取り出して境界碑を撮影すると、案の定、ローディング画面に入った。
「周文、何してるんだ?早く車に乗れよ」とリゲンが車の中から周文に呼びかけた。
「この境界碑を見てくれ、何か変だ」と周文は境界碑を指さして言った。
リゲンたちは車から降りて、境界碑の前に来ると、リゲンは一目見て言った。「これは誰かのいたずらだろう?」
安生は石碑の前に歩み寄り、石碑に触れ、石碑の下の土を少し掘ってから、眉をひそめて言った。「この石碑は最近埋められたものじゃない。かなり長い間ここにあったようだ。私たちを狙ったいたずらではないようだ」
「いたずらじゃないなら、なぜ陰陽境界碑なんてものがあるんだ?まさかこの境界碑を越えると本当に陰陽の境を越えて、あの世に行くってことか?」とリゲンは冗談めかして言った。
「あの世に行くかどうかは分からないが、用心に越したことはない。みんな気を引き締めろ」安生は周囲を注意深く調べたが、特に異常は見つからなかった。
山道はこの一本しかなく、近くに異次元フィールドもない。安生はこの境界碑一つで引き返すわけにはいかなかった。
周文は言った。「阿生、別の道を探そうよ。この先、何か変な感じがする。新しい異次元フィールドが出現したんじゃないか?」
「そうだな」安生は軽く頷いた。彼も何か違和感を感じていたが、迂回するとなると十数時間余計にかかることになる。
車を転回させ、来た道を戻って山麓の分岐点まで戻り、別の山道に入って反対側から進むことにした。この道は大きく迂回する上、道も悪く、スピードも出せない。
この道は凸凹が激しく特に走りにくく、車体が激しく揺れた。周文はスマホを見ると、ダウンロードは完了しており、スマホの画面に陰陽界のアイコンが表示されていた。
しかし周文は普段、人前ではアリの巣ダンジョンしかプレイしないので、これだけ多くの人がいる前で陰陽界の副本を開くわけにはいかなかった。
車は半日ほど走り続け、揺れで周文はバラバラになりそうだった。リゲンと阿来も具合が悪そうで、揺れで三人とも酔いそうになっていた。
キィッ!
突然の急ブレーキで三人は目が覚めたが、頭が前の座席の背もたれにぶつかりそうになった。
「生の兄、どうしたんだ?」とリゲンが尋ねた。
「前にまた境界碑がある」と安生は言うと、車のドアを開けて降りた。
周文たち三人も続いて降りると、確かに山道の脇にまた境界碑があり、同じように陰陽境界碑という文字が刻まれていた。ただし、この碑にはあのコテズのパターンは見当たらなかった。
「こんな不気味なことってあるのか?」リゲンは辺りを見回した。すでに日が暮れかけており、視界は限られていた。
「阿生、他に道はないの?」と周文は尋ねた。
「ない。今は異次元フィールドのせいで大半の道が寸断されている。もし別の道を探すなら、この山岳地域を完全に避けるしかない。そうなると時間がかかりすぎる」安生は考えてから続けた。「こうしよう。もう日が暮れかけていて、街灯もないから戻るのも危険だ。ここで野営して、夜が明けたら空港まで戻って飛行機で帰ることにしよう」
「うん、それがいいね」周文もそれが最善だと思った。陰陽境界碑を越えるのは賢明ではなかった。
安生は車から簡易テントなどの道具を取り出し、路肩の空き地にテントを設営し、他の車が来た時のために警告標識も設置した。万が一の衝突を避けるためだ。
ここを通る車はほとんどないだろうが、安生は万全を期していた。
リゲンと張玉致は会話を交わし、阿来は火を起こして食事の準備をしていた。
周文は車の中に座り、陰陽界の副本を開こうとしたその時、リゲンの驚いた声が聞こえてきた。「あれは何だ?」
周文は急いで車を降り、見てみると、リゲンが陰陽境界碑の方向を指さしており、顔には驚きの色が浮かんでいた。
周文がその方向を見ると、陰陽境界碑の向こう側に赤い服を着た女性が立っていた。
正確に言えば、それは赤い婚礼衣装を着た女性で、周文が子供の頃にテレビドラマで見たような伝統的な衣装だった。
現代の女性は結婚式で白いウェディングドレスを着るが、トンクの古代では白は死者が着る色で、結婚式では赤い服を着ていた。
裕福な家の娘が嫁ぐ時は、花の刺繍が施された赤い絹の婚礼衣装を着て、頭には赤い頭覆いを被り、新婚初夜に新郎がその頭覆いを取るのが習わしだった。
今、陰陽境界碑の向こう側に立っているその女性は、まるでテレビドラマに出てくる赤い婚礼衣装の花嫁のように、頭に赤い頭覆いを被り、まるで彼らを見つめているかのように立っていた。
「誰だ、そこで化かしているのは?」おそらく震えている張玉致を見て男性ホルモンが刺激されたのか、リゲンは驚くほど大胆になり、陰陽境界碑の向こうの赤衣の女性に向かって叫んだ。
赤衣の女性は答えず、じっと動かないまま立っていた。赤い布で頭は覆われていたが、周文たちは全員、彼女に見つめられているような感覚を覚えた。
赤衣の女性が答えないのを見て、リゲンは少し怒り、伝説レベルの黒い豹を召喚し、その黒い豹に赤衣の女性に向かって突進するよう命じた。
安生と周文たちは皆、その黒い豹を見つめていた。黒い豹はすぐに石碑を越え、空中に飛び上がり、鋭い爪を立てて赤衣の女性に襲いかかった。
次に起こったことで、五人全員が目を見開き、背筋が凍る思いをした。
黒い豹が赤衣の女性の体をすり抜けてしまったのだ。まるでその女性の体が幻影のようだった。
「まさか本当に幽霊に出くわしたのか?」リゲンもこの光景を見て、少し不安になった。
実弾での戦いなら怖くないが、幽霊となると、どんなに強い実力を持っていても、出会えば誰でも落ち着かない。
リゲンが黒い豹にさらなる攻撃を命じようとした時、赤衣の女性の体が動いた。その時、皆は気づいた。赤衣の女性の足が地面に着いていないことに。彼女はずっと空中に浮かんでおり、赤い刺繍の靴がはっきりと見えた。
先ほどは境界碑に隠れていたため、皆は彼女が立っていると思っていたが、この光景を見て、全員が逃げ出したい衝動に駆られた。周文も例外ではなかった。
彼は子供の頃、祖父からたくさんのゴーストストーリーを聞かされ、その中には鬼新婦の話もあった。こころのなかで思った。「まさか本当に鬼新婦に出会ってしまったのか?」
子供の頃、祖父から聞いた鬼新婦の話は、周文を一晩中眠れなくさせるほど怖かった。寝ると婚礼衣装を着た赤服の女性幽霊が命を取りに来る夢を見て、まさに子供時代のトラウマだった。