午後2時。
江城千禧ホテルの入り口で、タクシーがゆっくりと停車した。
車のドアが開き、スーツ姿の葉辰が降りてきた。
彼はオークションに古着を着ていくほど愚かではなかった。そうでもしなければ、どこに行っても人に絡まれるだろう。
「今日はこの格好なら、何も起こらないだろう」
葉辰が正面玄関に向かうと、すぐに心配そうな表情で入り口に立ち尽くす朱子萱の姿が目に入った。
今日の朱子萱は服装がかなりカジュアルで、特に目の下のクマが目立ち、疲れた様子だった。
彼は近づいて、直接言った。「何をぼんやりしているんだ、行こう」
朱子萱はようやく我に返り、慌てて恭しく言った。「葉様、いらっしゃいましたか...」
今回は彼女も葉辰に無礼な態度は取れなかった。師匠と祖父が何度も言い聞かせていたからだ。二人の口ぶりから葉辰の恐ろしさを知り、最近家族に起きた多くの出来事から、彼女も次第に慎み深くなっていた。
葉辰と朱子萱は警備員に招待状を渡し、無事中に入ることができた。
千禧ホテルは一般の高級ホテルとは異なり、プライベートクラブのような雰囲気で、全体的に中国風の建築で、花や水があり独特な趣があった。
二人はソファに座った。
「葉様、今は入場時間で、私たちの間では社交の時間と呼ばれています。実際のオークションは2時間後に上階で開催されます。ここで少し休んで、軽食でもいかがですか」と朱子萱は真面目に説明した。
葉辰は宴会場全体を見渡した。ほとんどが5、6人のグループでワインを飲みながら談笑していた。男性はスーツ姿、女性は上品なドレス姿で、かなりセクシーだった。
このような上流階級のパーティーを、葉辰は幼い頃から好まなかった。それが彼の孤独な性格を形成する一因となった。
朱子萱は雰囲気が少し気まずくなったのを感じ、「葉様、ここにご知り合いはいらっしゃいますか?もしいらっしゃれば、お話しされてはいかがですか」と声をかけた。
葉辰は首を振った。「必要ない。君に友人がいるなら、彼らのところへ行けばいい」
そう言うと、目を閉じ、休もうとする様子を見せた。
朱子萱が何か言おうとした時、ワイングラスを持った若い男女が近づいてきた。一人の若い女性が朱子萱の手を取り、嬉しそうに言った。「子萱、ここにいたのね!」