フクロウの鳴き声が虫の音とともに、廃墟となった古城から町へと続く道に響いていた。アーツックが前方を見つめ、数秒沈黙してから言う。
「まだ確信は持ててないが、おそらくは間違いない。」
「ひょっとして、私は長く生きてきた人間なのかもしれない。」
アーツック先生、そもそも自分が「人間」なのかどうかから疑ってみた方がいい……クラインは心の中でつぶやいたが、口には出せなかった。
深夜の荒野の静寂は人を弱気にさせる……
「私はおそらく、何かしらの代償を払って長い命を手に入れ、第四紀の終わりからずっと生き続けてるんだろう。まるで大陸中をさまよう幽霊のように……」アーツックが感情を抑え込むように、くぐもった声でつぶやいた。「私は過去を覚えていない。誓って忘れないと決めた人々のことや出来事さえも忘れてしまった……」
クラインは手に持ったステッキで前方の雑草をかき分けながら、考え深げに言った。
「アーツック先生、あなたについては一つ憶測があるんです。」
「憶測?」アーツックが横目で同行者を見る。
「あなたの記憶喪失は周期的に起きてるのだと思います。おそらく、数十年ごとに一度死んでそれまでの記憶を全て失い、ある一定の時間が経った後に眠りから覚め、新しい人生を歩み始める。そう考えれば、あなたの見たいろんな夢は別の人生で経験した出来事だと説明がつきます。」クラインは自分の憶測を語った。
アーツックの歩みが、まるで闇に衣のすそを引っ張られているかのように急に遅くなる。彼は前方をしばらく静かに見やってから言った。
「それは、さっき刺激を受けて思い出した記憶と一致してる。」
さっき刺激を受けて記憶が蘇ったのか?クラインが思わず口にした。
「アーツック先生、ひょっとしたら、あなたは過去の記憶を探すためにティンゲンを離れる必要はないのかも……いずれ少しずつ思い出すはずだ!」
「どうしてそう思う?」アーツックは驚いてクラインを見た。
クラインは微笑んで言った。
「あなたの記憶は完全に失われたわけじゃない。今日のように、何かの拍子に部分的に蘇ったのがその証拠です。」
「それに、あなたがベークランドで目覚めたとき、過去のことを忘れていたことを覚えてますか?」